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2017/08/11

<オピニオン>転換期の韓国経済 第90回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第90回

◆顕在化した中国の経済報復◆

 韓国の最近の経済指標をみると、韓国政府のTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備に対する中国の経済報復の影響が顕在化しているといえる。一つは、旅行収支を中心としたサービス輸出の減少である。7月下旬に発表された4~6月期のGDP統計(速報値)では、輸出が前期比3・0%減となり、うち財は2・9%減、サービスは4・1%減となった。

 8月上旬に発表された国際収支統計によると、今年上期のサービス収支が半期ベースで過去最大の赤字となる157億㌦になった。これは今年3月以降、経済報復の一環として、中国の旅行会社が韓国への団体旅行の販売を自粛したことにより、輸送収支と旅行収支が大幅な赤字になったためである。ちなみに、中国の訪韓者数は5月、6月に、前年比6割以上の減少になっている。

 もう一つは、化粧品や自動車などの消費財の販売減少である。とくに経済全体への影響が大きいのは自動車である。

 現代自動車(傘下の起亜自動車は含まない)の今年上期の中国における販売台数(韓国からの輸出分を含む)は、前年比28・8%減の36・1万台となった。近年の販売低迷には、中国の成長減速や地場企業の競争力向上なども影響しているが、最近の落ち込みは経済報復の一環として、韓国車の不買運動や「愛国マーケティング」が展開されたことによるものといえる。北京現代汽車(現代自動車と北京汽車の合弁)の販売台数はこの4月から6月まで、前年比で6割以上の落ち込みになった。

 注意したいのは、現代自動車の海外での販売が低迷すると、韓国の自動車部品の輸出(16年の全輸出額に占める割合は4・4%)にも影響が及ぶことである。現代自動車の海外現地生産に伴い、現代モービスを含む系列部品企業も進出し、現地生産を開始するが、現地生産できない部品や構成部品は韓国から輸出されるからである。

 中国を例にみると、北京現代汽車の販売台数と韓国の対中自動車部品輸出額は若干のタイムラグはあるものの、ほぼ連動していることがわかる(上図)。今年上期は、北京現代汽車の販売台数が前年比41・2%減、対中自動車部品輸出額が同40・6%減となった。

 また、今後懸念されるのが、中国での過剰生産能力の問題である。

 拡大する需要の取り込みに向けて、北京現代汽車は13年に第3工場、16年に第4工場を稼働させた。近く重慶市に建設した第5工場が稼働すれば、北京現代汽車の生産能力は約165万台となる。これに対して、16年の販売台数は114万台である。

 第5工場を建設した狙いは、内陸部での販売を強化することであったが、厳しい逆風に晒されるなかで販売を伸ばすのは難しいであろう。現在の販売不振が続けば、今年は1000万台を大幅に下回ることになる。


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