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2017/09/08

<オピニオン>転換期の韓国経済 第91回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第91回

◆消してはいけない起業家精神◆

 韓国では財閥改革の必要性が指摘される一方、ベンチャー企業の育成が課題とされてきた。経済のパラダイム変化や中国のキャッチアップに直面する現在、ベンチャー企業の育成はますます重要になっている。

 韓国では2000年前後に、ベンチャー企業ブームが生じたことはよく知られている。この時期には、ベンチャー企業育成法の制定やコスダックの創設など環境が整備されたこともあり、ソウル江南区の「テヘランバレー」に多くのベンチャー企業が設立された。しかし、その後成長の停滞やモラルハザードの発覚などによりコスダックが暴落し、ベンチャーファンドの投資が回収不能になる事態が相次ぎ、ブームが去った。

 調整期を経て、2000年代半ば以降、ベンチャー企業数とベンチャーキャピタル投資額が増加基調で推移している(上図)。京畿道城南市に設立された板橋テクノバレー(2006年造成開始、10年から入居開始)にはNEXON、NCソフト、ネイバー、カカオなど韓国を代表する企業や研究所が集積している。入居企業数は11年の83社から16年に1306社、従業員数は11年の3万801人から16年に7万2820人へと増加している(数字は京畿科学技術振興院)。

 ベンチャー企業の実態は、ベンチャー企業協会が毎年実施しているベンチャー企業精密実態調査(08年に全数調査から標本抽出調査へ変更)で、ある程度把握できる。

 10年調査では、創業3年以内の企業が26・2%、4~10年48・6%、11~20年19・9%、21年以上5・3%であったが、16年調査では、3年以内5・8%、4~10年56・5%、11~20年31・5%、21年以上6・2%と、11年以上の占める割合が上昇している。

 また、成長段階のどこにあるかに関する設問では、10年調査では、創業期7・2%、初期成長期56・0%、高度成長期23・2%、成熟期13・2%、衰退期0・4%、16年調査では創業期2・3%、初期成長期28・9%、高度成長期46・9%、成熟期21・1%、衰退期0・8%であった。このように、高度成長期や成熟期に入った企業が多くなっている実態を踏まえると、今後の課題はスタートアップを増やし、その成長を加速させることといえる。

 スタートアップの成長には、インキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーキャピタル、研究機関、大企業などの支援が必要である。スタートアップとこれらの支援者の関わり方をシステムとして捉えたのがスタートアップ・エコシステムである。近年ソウル江南区を中心に、スタートアップ支援の動きが広がっているのが注目される。12年5月に、


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