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2017/11/17

<オピニオン>転換期の韓国経済 第93回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第93回 

◆財閥改革に向けての静かな動き◆

 文在寅政権が比較的最近まで、「所得主導型成長」に関連した施策(公共部門を中心にした雇用創出や最低賃金の引き上げなど)を優先して打ち出してきたため、他の経済分野の取り組みは遅れがちであった。こうした状況下、11月に入り、新たな動きがみられた。一つは、「革新を通じた成長」に関連した創業支援策の骨子の発表であり(アントレプレナーシップを強化する必要性は第91回で指摘)、もう一つは、以下で述べる財閥改革をめぐる動きである。

 財閥改革に関する動きを振り返ってみよう。まず、文在寅大統領は5月10日の国民向け演説で、「・・・何よりも真っ先に雇用を創出します。同時に、財閥改革の先頭に立ちます。文在寅政権のもとでは政経癒着という単語が完全に消えます・・・」と述べた。

 財閥改革を進める強い意思は、「財閥狙撃手」の異名をもつ金商祚・漢城大教授を、公正取引委員長に指名したことに示された。同氏は少数株主の権利拡大を進めてきた行動派であり、参与連帯その後の経済改革連帯において、財閥の活動を監視しながら財閥改革を提唱してきた。金商祚氏は指名後の会見で、①財閥改革は経済民主化の出発点であり、経済民主化の本領は下請・中小企業、非正社員、零細自営業者の暮らしを改善すること、②財閥改革の目的には経済力の集中防止とガバナンス構造の改革の二つがあると述べた。

 最近では4大財閥の総資産額の増加率が、中位、下位の財閥を上回っており(上図)、4大財閥に経済力が集中する傾向がみられる。このため、財閥改革は4大財閥を中心に推進していく、財閥改革は綿密な計画に基づき、一貫した方法で予測可能な形で推進していく方針を明らかにした。

 6月23日に行われた4大財閥との懇談会で、金商祚委員長は経済における財閥の役割を評価するとともに、財閥改革は政府が一方的に押し付けるものではなく、財閥と協力しながら進めていくものとの考えを示した。これに関連し、財閥自ら改革を推進して模範的な事例を作ることを要請した。全体的に和やかともいえる雰囲気であった。

 11月2日に財閥(今回は5大財閥)との2回目の懇談会が行われたが、6月と異なり、金委員長はやや厳しい表情で、改革に向けた動きは国民の期待に沿えるものではなく、スピード感をもって実施するように求めた。

 その一方、12月より非営利財団の運営に関して、検査していくことを明らかにした。非営利財団が財閥グループの支配構造の強化や財閥一族の税金逃れを目的として、運営されていないかを調べるためという。たまたまその日ソウルに滞在していた筆者には、テレビに映し出された金委員長の表情から、財閥改革が静かに動き出しそうな気配を感じた。

 財閥改革が今後どのように進められるかは不明であるが、その手がかりになりそうなのが、17年1月23日に野党3党の政策研究所共同時局討論会に招かれた時に発表した「財閥改革の戦略と課題」である(配布されたペーパーはインターネットで入手可能)。

 序論に続く、2章の


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