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2017/03/03

<オピニオン>韓国経済講座 第192回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第192回

◆クローニー・キャピタリズムから転換を◆

 「あまりにも長い間、ワシントンにいる一部の人たちだけが、政府から利益や恩恵を受けてきました。その代償を払ったのは国民です。ワシントンは繁栄しましたが、国民はその富を共有できませんでした。政治家は潤いましたが、職は失われ、工場は閉鎖されました。権力層は自分たちを守りましたが、米国市民を守りませんでした。彼らの勝利は、皆さんの勝利ではありませんでした」。ちょうど7週間前のトランプ大統領就任演説の一節である。言葉を少し変えると日本にも似ているし、もっと似ているのは韓国だ。要は権力周辺中心に富と利権が集中し、国民にはその利が及んでこないような構図を改変するというのがトランプ演説の趣旨である。つまり米国ファーストという自国優先主義、保護主義ということになり、敷衍するとそれは国内の関係だけではなく国際関係にも及んでくる。

 米国がこれまでと異なる起点に立つと、各国の対応もおのずと変わらざるを得ない。例えば日本は、安倍首相が選挙人選挙結果発表後すぐに訪米し、まだ選挙人の投票前にトランプ氏に会うという、言うなればフライング外交を展開したうえで2月10日の日米首脳会談において、こうした下地外交の上に日米の政治・経済・外交などの協力関係を確認している。他方、米国がTPPからの米国脱退宣言(1月20日)がなされたものの、安倍政権はこうした状況も読んでおり、フィリピン、インドネシア、ベトナムそしてオーストラリアを訪問し、これまでTPP一辺倒であったものを東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に移行する動きを見せている。

 これに対し、韓国の対米対応が見えてこない。米大統領が変わる状況の中で、どのような対応を見せるのか注目されている。しかし朴大統領弾劾下にある中で黄教安・大統領代行体制の対応は国民の反朴槿惠運動の大声にかき消されている印象だ。これまで、米国(THAAD配備)と中国(貿易・投資)の間を、その場の状況によって行き来したため、韓国の外交姿勢に対する不信感も表れている。また、日本に対する姿勢も反日の象徴である少女像をソウルの日本大使館前に続き、釜山領事館前にも設置したことで、これをめぐり日韓対立の溝も深まっている。米国の保護主義は、韓米FTAの見直しなど貿易依存度の高い韓国に大きな影を落とし、中国の景気後退による影響も広く懸念されているように看過できる問題ではない。対外関係の不確実性も高いものの、国内問題はさらに深刻だ。

 例えば自治体別の域内総生産の変化(2010年~15年)を見るとその生産額はソウル特別市、京畿道に集中しており、この期間の増分額も大きい。ソウル広域圏と地方での生産格差が大きいことはそのまま所得、雇用機会の格差となり中央に国民の経済利益が集中していることを意味する。冒頭のトランプ氏の就任演説がそのまま、否、より深刻な形で韓国に現れているのだ。

 こうした背景には、韓国特有のクローニー・キャピタリズム(縁故資本主義)がある。ハンター・ルイスによれば縁故資本主義とは、一言でいえば「政官財の癒着」によって行われる資本主義である。本来の資本主義とは、


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