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2017/03/31

<オピニオン>韓国経済講座 第193回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第193回

◆国家再興で輸出の回復なるか◆

 直近4カ月(2016年11月~17年2月)の輸出が増加し続けているという。要因は輸出単価が上昇してきたのと輸入量が上向いてきたことが影響しているといわれる。これが続けば輸出回復が見込めるのであろうか。事はそう簡単ではないと思われる。この間は偶然ともいえるウォン安傾向であった。16年9月28日に1㌦=1092㌆から12月26日付では1211㌆まで低下し、17年1月29日でも1192㌆を維持していた。韓国の輸出品目は、非価格要因で競争力を維持できる品目が限定的で、価格要因で競争力を維持している品目が多い。特に対中輸出では本国企業が部品、半製品などの中間財や資本財を進出先企業に送るものが多く、ウォン安により輸出が増大しているのである。したがって、今の輸出増加現象がこのまま景気回復の牽引車になるとは考えにくい。

 むしろ、輸出停滞現象のほうが深刻である。韓国の輸出先五大国の最近の状況を表にまとめた。貿易額の推移をみると、14年から16年にかけて約1966億㌦の減少で、貿易が景気牽引となるにはかなり期待薄である。輸出は773億㌦、輸入は1193億㌦の縮小で、国内市場の萎縮に加えて輸出競争力の低下が同時進行している状況である。それを国別にみると最大市場である中国、米国、日本での輸出入が低迷している。こうした背景には、経済的要因のみならず政治外交的な要因が強く効いているように思われる。

 足元の日本とは朴政権の日本排除政策が根底にある。朴槿惠政権が発足したのは、13年2月で、失権まで日本を訪れることはなかった。のみならず、就任以降歴史問題を前面に出して「告げ口外交」と言われるように首脳会談などで各国に日本を非難していた。こうした政権の不和状況は経済交流にも反映し、貿易の減少を招いたともいえよう。

 米国との関係は16年7月8日、米韓両国で在韓米軍へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を17年12月末までに配備を完了させると電撃的に合意、発表したことで韓国の対米軍事依存が強化され、そのことが経済面にも影響をもたらしている。韓米FTA締結以来、韓国は対米貿易黒字を続けており、その効果は評価されているが、THAAD配備により、最大の中国市場で苦戦をしている。米国と中国をめぐっては、朴政権による日和見(天秤)外交が、韓国の対外的信用を低下させている。15年6月29日に中国が主導するAIIBに、米国の制止を振り切って参加を表明し、17年12月を目途に国内手続(批准)を終了させる予定である。同年9月3日には朴槿惠大統領が北京の天安門で、習近平国家主席と握手を交わし、天安門の上から軍事パレードを観覧し、中韓関係の強化ぶりを見せた。

 しかし、そのことは同時にオバマ大統領の反感を買うこととなり、翌10月16日に訪米したものの、オバマ大統領と朴大統領の会談した時間は僅か35分間で、その内容も韓国にとってかなり厳しいものであったと言う。これを受けたかどうかは予測の域を出ないが、12月28日に日韓外相による「日韓慰安婦合意」、16年7月8日米韓両国で在韓米軍へのTHAAD配備を合意、発表、11月23日には日韓両国の包括軍事保護協定(GSOMIA)に署名など、韓国の日米より外交が進んだのである。

 これに対し、中国はTHAAD配備合意翌日の7月9日の中国共産党・中央委員会の広報誌「環球時報」に、「中国はTHAAD実装に対抗すべきだ」とする記事を掲載し、大略次のような五つの主張項目を掲げた。①中国は


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