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2018/09/14

<オピニオン>転換期の韓国経済 第103回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第103回

◆韓半島新経済地図に向けた動き◆

 9月にソウルを訪れた際に立ち寄った書店で、朝鮮半島新経済地図に関する本を何冊か目にした。南北関係改善への期待が高まるなかで、北朝鮮でのビジネスチャンスを探る動きが広がっているのであろう。ただし、先行き楽観は禁物である。

 北朝鮮が今年に入り対話路線へ転じたのは、文在寅大統領が対話を呼びかけるとともに、過去の南北合意の継承を表明したこと、中国が国際社会の制裁に同調し、経済への影響が大きくなった(上図)ためと考えられる。

 注意したいのは、対話路線に転じる一方、金正恩国務委員長が習近平国家主席と3月以降短期間に3回会談するなど、中朝関係が急速に改善したことである。

 この背景には、①北朝鮮は米朝首脳会談に臨む上で、また米朝交渉を進める上で、中国を後ろ盾にしたかったこと、②中国は、中国が関与せずに南北関係ならびに米朝関係が改善していくのを避けたかったことなど、両者の思惑の一致があったといえる。

 4月の南北首脳会談で署名された「板門店宣言」では、冷戦の産物である分断と対決を終わらせ、南北関係の積極的な改善と発展を図ることが合意された。宣言には、当局間協議を緊密にし、民間交流と協力を円満に進めるため、双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所の開城地域での設置、2007年の南北共同宣言で合意した事業の積極的な推進、東海線と京義線の鉄道と道路などの連結、活用などが盛り込まれた。

 首脳会談後、文化・スポーツ分野での交流が始まり、8月には約3年ぶりの離散家族再会事業が行われた。

 文在寅大統領は光復節で、「東アジア鉄道共同体」構想を提唱した。これは日本の併合時につながっていた朝鮮半島西側の京義線、東側の東海線に鉄道を運行させることによって、南北の経済発展につなげていく狙いである。17年に打ち出した「朝鮮半島新経済地図」に示されたように、京義線沿いを「産業・物流・交通ベルト」、東海線を「エネルギー・資源ベルト」、非武装地帯を「環境・観光ベルト」にしていく構想である。

 しかし、米朝首脳会談後、非核化に向けた動きは進展していない。米国が非核化の進展を確認して制裁を解除する考えを示しているのに対して、北朝鮮は非核化を進める見返りを受けながら段階的に進めていく考えで、両者の溝が埋まっていないためである。

 さらに、こうした状況下、関係諸国の間にも、注意すべき動きがみられる。

 第1に、中国に制裁を緩める動きがみられ、


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