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2018/10/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第104回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第104回

◆朝鮮半島新経済地図構想◆

 韓国では北朝鮮の非核化の進展に伴い、南北経済交流(含む南北経済協力事業)が再び活発化することへの期待が高まっている。この背景には、開城工業団地の操業と金剛山観光事業の再開、鉄道および道路の連結など、過去に南北間で合意した事業が推進されることのほか、文在寅政権が朝鮮半島新経済地図構想を打ち出したことがある。

 この構想には以下で指摘する目的ないし狙いがあると考えられる。

 第1に、朝鮮半島の経済統合を推進することである。この構想では、京義線沿いに「産業・物流・交通ベルト」、東海線沿いに「エネルギー・資源ベルト」、非武装地帯に「環境・観光ベルト」を建設する。地域の特性を活かした経済ベルトを建設する点に特徴がある。

 第2に、北東アジアの経済統合につなげていくことである。北朝鮮の羅先経済貿易地帯では、中国、ロシアの協力で、国際的な物流網が形成されている。ロシアは羅津港とハサンを結ぶ鉄道の改修工事を2013年に終えた。中国も国境からの道路の整備、発電・港湾施設の改修などを手掛けたほか、琿春と羅先を結ぶ新図們江大橋を16年に完成させた。

 朝鮮半島新経済地図構想の下で、韓国とロシア、中国との物流網が整備されれば、関係諸国に大きな経済効果がもたらされる。

 第3に、韓国の影響力を高めることである。近年、南北の交易額がほぼゼロになる一方(上図)、北朝鮮の対中貿易依存度が著しく上昇した結果、中国の北朝鮮への影響力が増大した。こうした状況下、朝鮮半島の経済統合を推進し、それを北東アジアの経済統合につなげることができれば、この地域での韓国の影響力を高めることができる。

 韓国では南北経済交流が停滞した時期に、中朝の経済関係が拡大した要因を探り、今後の南北経済交流に活かす研究が行われた。新経済地図構想に、こうした提言が反映されていると思われる。第4に、韓国経済の新たな成長原動力にすることである。インフラ建設や新産業の育成、市場の拡大など、韓国にとって北朝鮮が新たな成長機会になる可能性が出てきた。文在寅政権はこれまで所得主導型成長を推進してきたが、期待された成果を上げていない。むしろ、雇用や投資面で景気悪化の兆候がみられる。このため、政府には、朝鮮半島新経済地図構想を韓国の新たな成長原動力にしていきたい狙いがあると考えられる。

 南北経済交流再開への期待が高まる一方、二つの点に注意する必要がある。一つは、


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