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2018/04/10

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第30回 医療費の心配いらない国つくる「文在寅ケア」                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆財源の安定的な確保こそが成功の道◆

 2018年は、文在寅政府の「健康保険の保障性強化対策」、いわゆる文在寅ケアが本格的に実施される初年である。この対策は、文在寅大統領の選挙公約の一つで、国民の医療費負担を減らし、医療に対するセーフティーネットを強化することを目的に実施されている。文在寅大統領は17年8月にソウル市内の大手病院を訪問した際に、「健康保険(韓国の公的医療保険)に加入するだけで大きな心配なく治療が受けられ、健康状態が回復できるように健康保険の保障性(医療費総額のうち、公的医療保険によりカバーされる割合)を画期的に高める」と主張しながら、「健康保険の保障性強化対策(以下、文在寅ケア)」を発表した。

 文在寅ケアのポイントは国民医療費増加の主因とも言える保険外診療(健康保険が適用されず、診療を受けたときは、患者が全額を自己負担する診療科目)を画期的に減らすことである。文在寅ケアにより、エステや美容整形などを除くMRI検査やロボット手術など約3800項目の保険外診療が22年までに段階的に保険が適用されることになる。

 3大保険外診療の中で患者の負担が最も大きいのは、選択診療制である。選択診療制とは、病院級以上の医療機関を利用する患者が、特定の資格を満たしている医師を選択し、その医師から医療サービス(診察、入院、検査、影像診断及び放射線治療、麻酔、精神療法、処置及び手術、鍼灸など)を受けた場合、診療費の15~50%に達する費用を追加で負担する仕組みである。患者やその家族にとって負担が大きく、制度の改善が継続的に要求されていたので、韓国政府は選択診療制を段階的に縮小(制限)してきた。今回の措置により選択診療制は来年から完全に廃止される。また、差額ベッド代の基準を変え、健康保険の適用が現在の4人部屋から、18年下半期からは2~3人部屋まで拡大される。さらに、重度認知症高齢患者の自己負担率が現在の20~60%から10%に、子どもの自己負担率が現在の6歳未満10%から15歳以下5%に調整され、所得5分位以下の低所得層の自己負担上限額も引き下げられる。

 このように保険外診療に健康保険が適用されると、国民の医療費負担は減るものの、政府の財政的な負担は現在より大きくなるだろう。政府は、健康保険の保障性強化対策を実施するために約30・6兆㌆の財源を投入する計画であり、財源の調達方法として20兆㌆に達する健康保険の累積積立金の活用、国庫支援の拡大、保険料率の引き上げなどを考えている。韓国政府は、健康保険の保障性強化対策を行い、15年現在63・4%である健康保険の保障率を22年には70%水準まで引き上げることを目標にしている。

 韓国政府が目標として挙げている保障率70%に対して市民団体の参与連帯は、OECD加盟国の公的医療保険の保障率が平均81%であることと比べると、韓国政府の目標値は適正な数値とは見難いと評価しながら、健康保険に対する国庫支援を拡大するなどの積極的な財政拡大政策を実施し、より高い保障率を提示すべきだと提言している。但し、公的医療保険に対する保障率は各国の医療制度が異なるために直接的に比較することは難しい。従って、国家間の比較のためには国民医療費に占める公的医療費の割合を見た方がより望ましい。OECDのヘルスデータ2016によると、OECD加盟国の国民医療費に占める公的医療費の割合は、


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