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2018/08/24

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第34回 国民年金、財政再計算の結果を発表                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆財政と雇用の安定化政策の同時実施を◆

 今年は韓国が公的年金(以下、国民年金)を導入してから30年を迎える年である。最近の国民年金の被保険者数と受給者数の動向をみると、被保険者数は2008年の1834万人から17年には2182万人で増加した。一方、同期間における国民年金の受給者数は618万人から1908万人まで増加している。少子高齢化の進展により被保険者数より受給者の増加が目立つ。

 韓国政府は、年金の持続可能性を検討するために5年ごとに財政再計算を実施しており、今年は4回目の財政再計算が行われた。国民年金制度発展委員会(以下、委員会)が8月17日に発表した第4次財政推計によると、18年5月末現在634兆㌆である積立金は、41年には1778兆㌆でピークを迎えるものの、それ以降は高齢化と年金給付に対する支出の増加により減少し続け、57年には底をつくことになる。これは60年に積立金が枯渇すると推計していた13年の第3次財政推計より3年繰り上げられたものである。

 このように年金財政の悪化が予想される理由としては、急速に進む少子高齢化により公的年金の保険料を納める現役世代は減少する一方、受給者になる高齢者は急増する点が挙げられる。また、年金財政の悪化が急速に進むもう一つの理由としては、国民年金の保険料率が20年間も固定されている点が挙げられる。韓国政府は制度への加入を促進するために、1988年から5年間3%に抑制していた保険料率を93年には6%に、98年には9%に段階的に引き上げたものの、それ以降は政治的な理由等により保険料率を引き上げていない。一方、導入当時70%で高く設定されていた所得代替率は、98年の年金改正により60%に引き下げられた。さらに韓国政府は年金財政の枯渇などを理由に04年から2007年までの所得代替率は55%に、08年以降は50%に、28年までには40%までに引き下げることを決めている。

 しかしながら、このような所得代替率はあくまでも定まった期間(40年)の保険料を納め続けた被保険者を基準として設計されており、実際、加入期間の短い多くの被保険者が手にする所得代替率はそれほど高くないのが現実である。韓国の保健福祉部の発表による17年基準の国民年金受給者の平均加入期間は約17年で、これに基づいて計算した実質所得代替率は24%である。例えば、17年の平均所得(1カ月)218万㌆に実質所得代替率24%を適用すると、実際の平均受給額は52・3万㌆に過ぎない。これは、国民基礎生活保護制度の1人世帯の生計給付選定基準(中位所得167万2105㌆の30%以下、18年)50万1632㌆を若干上回る水準である。「小遣い年金」という批判を受けているのもこのような理由で、国民年金の給付だけで老後を過ごすことは難しいのが現実である。

 国民年金の財政計算のために、民間の専門家で構成された委員会は、第4次財政推計の結果に基づいて、88年まで年金給付ができるように、毎年1年分の積立金を維持することを目標にし、「老後所得保障強化対策案」と「国民年金の財政安定化対策案」という二つの対策案を提示した。

 まず、「老後所得保障強化対策案」は、保険料率を引き上げて、18年現在45%である所得代替率を維持することである。委員会は、このためには現在9%である保険料率を来年から11%に引き上げる必要があると提案している。そして、「国民年金の財政安定化対策案」では、所得代替率を既存の計画通り、28年までに40%までに引き下げると共に、保険料率を段階的に引き上げて、28年には13・5%にすることを提案している。29年以降は保険料率を引き上げずに年金の支給開始年齢を段階的に引き上げて(47年には67歳まで)支出を調整することを考えている。

 現実を考慮すると、


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