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2018/03/30

<オピニオン>韓国経済講座 第203回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県横浜生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学教授。アジア経済文化研究所筆頭理事・首席研究員、育秀国際語学院学院長。

  • 韓国経済講座 第203回 

◆どっちもどっち◆

 この言葉を三省堂刊行の書籍版『大辞林 第三版』によると、「双方ともに積極的によいという評価を下せないようす」という意味で、どちらもはっきりとした結果が得られない状況を表現する語句である。この語句が当てはまるのが韓国の金利政策かも知れない。韓国の政策金利の推移は、2011年3・09%、12年3・08%と3%台を推移していたが、韓国銀行は12年7月に利下げに転じ、16年6月には政策金利を過去最低水準の年1・25%まで引き下げていた。しかし、17年11月30日、政策金利を年0・25%引き上げ、年1・5%とした(図参照)。

 この背景には米国の政策金利が0・25%引き上げられ1・25%~1・50%となったことが影響している。さらに18年2月27日、韓銀は政策金利を1・5%に据え置いた。17年11月に利上げした効果を見極めるということだ。景気は回復基調だが、ウォン高で物価が上がっておらず、追加利上げを急ぐ必要はないと判断した。また、米国による韓国への通商圧力の強化や米GM韓国法人の現地生産縮小が景気の下方リスクと指摘し、利上げを見送ったと報道されている。

 ウォン高、低物価、外資流入の安定が続けば、連邦準備制度理事会(FRB)の金利運営にもよるが、しばらくは現状を維持するものと考えられよう。ということは低金利状態が続くことであり、それは韓国経済社会にとってどのような意味を持つのだろうか?

 一般に中央銀行の金利操作によって行われる金融政策には、景気回復・上昇を目的とする金融緩和政策と景気過熱を抑制する金融引き締め政策がある。金融緩和政策には金利引き下げが伴う。金利が下がると、金融機関は、低い金利で資金を調達でき、企業や個人へ金利を引き下げて貸し出しできる。また、企業が社債発行などの形で市場から直接資金調達をする際の金利も低下するので、企業は、運転資金や設備投資資金を調達し易くなる。したがって、雇用効果を高め失業率低下につながるのである。

 また、個人も、住宅の購入のための資金を借り易くなったり、個人事業者の資金調達が容易になるのである。逆に金利が上昇すると、金融機関は、以前より高い金利で資金調達しなければならず、企業や個人への貸出においても、金利を引き上げるようになる。その結果、企業や個人は、資金を借りにくくなり、経済活動が抑制されて、景気の過熱が抑えられることになる。

 現在の韓国では、15年以降低金利政策を続けており、景気回復局面を作り出してきた。既述のように低金利局面では景気が上向く要因が多く作用するのであるが、現状では低金利が経済全体に有利に作用するわけではなく、所得上位部門には理論的効果があるものの、低い部門には有効に低金利効果が作用していない。むしろ理論をはずれて逆効果になっているという現象が起こっている。その様子は、「企業の収益性悪化にもかかわらず、低金利の長期化がもたらした豊富な流動性をベースに株式保有層は潜在損失を免れたり恩恵を受けたり、低金利の下で住宅所有者の評価益も増えた」とする報道もあり、所得上位層、企業などは低金利によるメリットを受けてきた。(ハンギョレ新聞17年1月6日付)

 中でも低金利を利用した企業の、労働を資本で代替する投資は、労働弱者の不利化をさらに促進している。産業銀行が3500企業を対象に調査する「投資動機別の設備投資計画」によれば、人員削減を目的とする自動化・省力化投資は、


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