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2018/08/31

<オピニオン>韓国経済講座 第208回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県横浜生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学教授。アジア経済文化研究所筆頭理事・首席研究員、育秀国際語学院学院長。

  • 韓国経済講座 第208回

◆第4次産業革命へ向け再生戦略となるか◆

 ある意味成長願望?近年多くの先進国の成長戦略に「第4次産業革命」という言葉を盛り込んでいる。これは知られるように、2011年ハノーバー・メッセにてドイツ政府と民間企業が組んだプロジェクトから提唱された概念で、「インダストリー4・0」と称される。4・0とは第4次で、産業革命の第4回目を意味するという。近年こうした産業革命が各国政府の経済戦略に採用されつつある。というのもドイツでは1989年に起こった東西統一により生産性の低い当時の東ドイツを包含することで経済が低迷した。その復興策として労働市場改革、企業制度・税制改革、社会保障制度・医療制度等の改革で構成される「シュレーダー改革」、ドイツの地方政府と中小企業による「産業クラスター政策」により、わずか十数年で経済再生に成功した。しかしながら、2010年頃になるとドイツでは、この両改革が既に限界に達して生産性の伸びがほとんど見られなくなる。

 一方、好調な経済成長の成果配分を求める労働者の声を反映して賃金は上昇し、両者の乖離が顕著になった(上図)。そのため、ドイツ政府は、今後の経済発展の原動力となる成長戦略を必要としていた。インダストリー4・0はその復興戦略として登場したものである。

 こうしたドイツ的状況は、第三次産業革命が飽和状態にある先進各国の注目をひき、リーマンショック以降の新たな成長動力として検討されてきた。韓国も同様で、IMF危機以降、半導体産業、モバイルなどIT分野の拡大や金融産業などのサービス業の拡大に力を入れ「雇用なき成長」といわれるほど企業経済は発展したものの二極化の進展、雇用機会の減少により国民経済は停滞したままである。この状況からの脱出という強い国民願望が、分配政策主導で人中心の政策を唱えた文在寅政権を生み出し、2017年11月10日に大統領直属機関とする第4次産業革命委員会を発足させた。同委員会は第4次産業革命に対応するための総合的な国家戦略を講じ、各官庁の実行計画や推進状況を点検する役割を果たすもので、第4次産業革命がもたらす産業・経済、社会、科学などの変化に合わせ、各分野が緊密に連携して総合政策をまとめ、「ヒト中心」の第4次産業革命政策を推進する方針と報道されている。

 ところで、既述のようにドイツの場合は賃金上昇が続く半面、労働生産性が停滞する中での改善策であり、賃金上昇率18%水準、労働生産性も停滞とは言え8%水準にある。韓国の場合、賃金の伸び率、労働生産性ともに2%程度まで下がっており、新政策推進の経済力量が比較にならないほど低い状況である。ドイツの20%近い賃金上昇はそれだけ企業の支払い能力が高いことを意味し、生産性も韓国の4倍の労働効率があってのことである。つまり、まずは第4次産業革命を進める基礎体力が必要となる。というのも、紙幅の関係で革命内容までは立ち入れないが、第4次産業革命は、あらゆるモノがインターネットにつながり、そこで蓄積される様々なデータを人工知能などを使って解析し、新たな製品・サービスの開発につなげる産業社会構築を目指しており、こうした社会を形成するためには、今の社会の修正では不可能で、根本的社会改革が必要となるからである。

 文在寅政府の第4次産業革命構想も2008年李明博政権が国家ビジョンとして打ち出した「低炭素・グリーン成長」、2013年朴槿惠政権が打ち出した「創造経済」の


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