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2018/09/28

<オピニオン>韓国経済講座 第209回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県横浜生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学教授。アジア経済文化研究所筆頭理事・首席研究員、育秀国際語学院学院長。

  • 韓国経済講座 第209回

◆愛しのマイカー◆

 横断中の歩道で一斉に車が停止したと同行者の誰もが驚いた。この夏、延辺自治州の州都延吉市に行った時の光景だ。多くの方が知るように、中国での道路横断は、大都市の信号のある横断歩道を除いて、その殆どが渡りたい時にどこでも渡るので、車列が途切れた時を狙って急いで渡るのがその習わしである。車が止まってくれることは殆どない。よしんば止まっても足元ギリギリだ。車が完全に支配する中国の公道交通マナーにおいて、横断者が歩道を歩くとすべての車が一斉に停止するのが唯一延吉市内だ。

 この辺の事情を見てみよう。2012年延辺朝鮮族自治州は創立60周年を迎えた。この前後から政府、省、民間の投資を進め、都市インフラが整備され、ビルの電飾も夜間にはとても華やかにきらめくようになった。こうした資本の流入に伴って市民の所得、特に都市部所得が急速に伸びている(表参照)。自治州では2000年の都市部の平均可処分所得が12万円(以下円換算)だったものが15年には70万円にまで達しており、延吉市の都市部でも同時期に9万円から46万円にまで5倍以上所得が伸びている。

 しかし、これは国内賃金をもとにしている統計であるため、海外送金は反映していない。この可処分所得のほかに、特に韓国などからの海外送金、持参資金を含めたものが実質可処分所得なるが、その金額は測れない。延吉市都市部の所得は10年から15年までで1・6倍も伸びており、消費性向(可処分所得に占める消費支出)は同期間に83・9%から89・1%に上昇する半面、エンゲル係数(食費÷総消費)は29・8%から23・9%へと減少している。つまり市民の消費行動に多様化が進んでいるのである。いずれにしても、この間の急速な所得上昇が、マイカーブームの火付け役となっていることは確かだ。

 市内において個人の乗用車がここ数年急速に増えている。市の統計によれば、10年における小型自家用車は4万8266台であったものが15年には10万2799台と倍増している。この間小型自家用車の増加分は5万4531台であるが、この台数は市内のすべての車種の増分が4万3972台であることから、他の種類の減少分を上回って伸びているのである。

 一体市民のどれくらいに普及しているのかを傍証してみよう。中国で運転免許を取得できるのは18歳以上、60歳以下であり、その市内人口はおよそ39万人、そのうち男性が19万3000人であり、女性ドライバーはごく少数であるから男性の不所持と相殺する。このように設定すると、15年の乗用車台数が10万2000台であることからおおよそ男性2人に1人に普及しているということになる。

 これは驚異的な普及率で、年間所得70万でどうして車が所有できるのであろうか。現地でのヒアリングでは4WDの中古車が日本円で280万~300万円程度、これはごく普通に乗られている車種である。もちろん月賦払いの制度もある。車を持つことは彼らにとっては完全にステータスシンボルで高級車は社会的信用をもたらすので、自宅は借家でもオーナードライバーになる者が多いという。そのために韓国に出稼ぎし、数年で資金をためてくるという。

 こうした急速なモータリゼーションは様々な問題も引き起こしている。新規未熟ドライバーの増加、


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