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2018/10/26

<オピニオン>韓国経済講座 第210回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県横浜生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学教授。アジア経済文化研究所筆頭理事・首席研究員、育秀国際語学院学院長。

  • 韓国経済講座 第210回

◆あるべき姿は?◆

 「最近、国内外の条件の変化などを考慮すると、経済成長率は2018年と19年の両方2・7%を示すものと展望される」。韓国銀行が10月18日に「経済展望報告書2018・10」を発表した。その冒頭文である。文字通り読めば、内外要因に配慮した展望とも読めるが、実はそんな綺麗事ではない。韓国銀行は4月までは今年の成長率は3・0%に達すると見込んでいたが、7月になると3%台の成長を2・9%に見直し、わずか3カ月後の10月に予測値を再び2・7%引き下げたのが今回の発表である。韓国のこうした状況に対して、国際通貨基金が今年の世界経済の成長率予測を平均3・7%成長すると予想していることもあり、保守系マスコミは韓国の経済低迷に関して政府の政策をかなり批判している。

 この背景には文政権の所得主導政策による是非がある。とりわけ雇用問題は深刻である。韓国銀行の各期の経済展望によると、1月には年間就業者を前年比30万人増と予想していたものの、その後の状況、特に1月の最低賃金引き上げの影響がそのまま反映し、4月にはその対前期増分を26万人に引き下げ、その後さらに雇用状況悪化が続き7月に18万人、今回10月には年初予測の30%以下の9万人と大幅な下方修正となった。雇用・就業の悪化の裏には失業の増大がある。韓国雇用情報院よると、今年1~8月の失業者数は月平均約112万9000人で、前年同期に比べて約4万5000人増加したとされており、この状況は1999年の調査開始以来、過去最悪と指摘されており、昨今の就業悪化は失業増大とセットになっていることが明白だ。

 保守系マスコミが批判するのはかかる現状のみならず、これに対する所得主導政策だ。つまり、こうした失業者に対して政府が支出した失業補助金は約4兆5000億㌆(約4500億円)で、前年に比べて25%増加、2000年の調査開始以来最高額を記録したという。そして、この傾向が年末まで続くとすれば、今年の失業給付支給額は6兆7721億㌆に達する見通しで、これは昨年1年間の失業給付支給額の5兆2425億㌆を大きく凌駕することになる。この財源は税金であり、他の有効的な使用の議論がなく実施されている。そしてこれら失業給付支給額の今年の増加率は25・0%で、最低賃金引き上げ率の16・4%を大きく上回っている。特に失業給付の大部分を占めている雇用保険加入者の求職給与下限額が最低賃金引き上げを受けて一緒に上昇したためとされる。こうした失業者対策がそのまま予算化されていることから、失業者増と税支出が同伴して上昇する仕組みに批判が向けられているのだ。いわく、「市場を活性化して企業の活力を育むのではなく、税金をばらまくことで全てを解決しようとする逆コース政策へと走り出した」という厳しい指摘だ。

 これには現政府の分配政策に対する厳しい批判とともに、政策矛盾への指摘もある。最低賃金法や失業補助金及び非正規職の正規職化を始めとする生活弱者への対策は、


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