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2019/03/08

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第72回 米朝首脳会談と激変する韓半島・北東アジア⑧                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆再び暗雲立ち込める北朝鮮情勢◆

 米朝首脳会談について分析・評価し、今後の韓半島、さらには北東アジアの行方を考える。北朝鮮情勢は、2017年は過去最悪の状況であったが、2018年には一転・好転し、過去最高の状況となった。例えば、米朝首脳会談(6月)が歴史上初めて開催されたこと。また、6カ月間(3月~9月)という短い期間に南北首脳会談が3回(4月、5月、9月)、中朝首脳会談が3回(3月、5月、6月)、韓日中首脳会談(5月)が開催された。

 さらに、2019年に入っても1月に4回目の中朝首脳会談が開催されたり、2月には2回目の米朝首脳会談が開催されるなど北朝鮮情勢は、好転の勢いが加速するかに見えた。これまでの北朝鮮の外交パターン「危機(クライシス)→交渉(ネゴシエーション)→合意(アグリメント)」(1994年、2005年、2012年の3回)とは、違うのでないかと期待もしていた。しかし、またしても暗雲が立ち込め始めている。

 トランプ大統領と金正恩委員長による2回目の米朝首脳会談は、ベトナムの首都ハノイで開催されたが、大きな期待とは裏腹に北朝鮮の非核化をめぐって溝が埋まらず、合意文書の署名が見送られた。米朝首脳会談は、非核化交渉が決裂し、失敗に終わった。トランプ大統領は会談後の記者会見で、金正恩委員長が核爆弾の原料が製造できる寧辺核施設の廃棄の見返りに、経済制裁の全面解除を求めてきたが、これは到底受け入れられないと判断し、「交渉の席を立たざるを得なかった」と述べた。

 一方、北朝鮮は、李容浩外相が記者会見を開き、「北朝鮮は制裁の全面解除など求めていない」、「求めたのは一部解除だ」と反論した。また、「北朝鮮は米国の査察の下で寧辺核施設の完全廃棄を提案したが、これは米朝間の信頼の程度を考えると、現段階では北朝鮮ができ得る最大級の非核化措置である」と述べた。

 米朝非核化交渉が、決裂した理由は、「完全な非核化」と経済制裁解除の範囲に対する認識の違いであった。米国が求める「完全な非核化」とは、「最終的かつ完全に検証された非核化」に加え、核物質・武器・ミサイル・発射台・生物化学兵器・その他大量破壊兵器の除去と破壊であった。

 また、核施設の廃棄は、寧辺の核施設だけでなく、ウラン濃縮施設である「降仙発電所(平安南道千里馬郡)」や「分江地区の核施設」も対象となった。特に「分江地区の核施設」は、その存在を北朝鮮の幹部たちにも知られないようにトップシークレットとして徹底して情報管理していた。しかし、米朝会談でその存在を米国に指摘され、国際世論にも知れ渡ることになり、北朝鮮にとって青天の霹靂となった。分江地区は、既存の寧辺核団地の北西側に位置し、北朝鮮は外部から探知されるのを憂慮し、その地域の地下に高濃縮ウラン工場を建設しているようである。

 スタンフォード大学国際安保協力センター所長のジークフリード・ヘッカー博士によるとこの核施設は、


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