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2000/10/20

<在日社会>金大中大統領ノーベル平和賞受賞に思う

 金大中大統領のノーベル平和賞受賞は、韓半島そしてアジアの平和に大きく貢献するものであり、在日社会にも大きな希望と勇気を与えた。金大統領の古い友人である李仁夏・在日大韓基督教教会川崎教会元老牧師に、受賞の意義について寄稿をお願いした。

アジアの平和に貢献

 金大統領と筆者の出会いは全くの偶然だった。1972年10月10日、彼は、その前年の大統領選に破水、今も引きずっている股関節の悪化を治療の名目で渡日された。その一週間後、民主主義の死を意味する朴正熙維新体制が敷がれた。

 今、韓日文化交流の韓国側代表の池明観教授(当時、東京女子大)とアジアと世界のキリスト教団体の駐在員二名から、今大中氏の時局の話を聞こうと提案され、当時、教団の総務職にいた私は英文秘書のカナダ人宣教師宅で会うことになった。

 その当時、すでに尾行車が監視していて、緊迫した状況だった。用意されたカレーライスを頂きながら、彼の民主化と民族統一の夢と政治家としての闘いの厳しさに身を投ずる覚悟を語った。私に向って、「あなたは牧師だから、祈って支えてほしい」と頼まれ、神の慈しみと正義と恵みの御手が支え、道引くよう皆で祈った。彼がカトリック信徒であり、令夫人がプロテスタントの信徒であることは知られていた。

 その翌年、拉致、76年、民主教国宣言、投獄、80年の死刑判決等、苦難に満ちた長い闘いは衆知のことである。韓国における民主化を求める闘いは多くの牧師・神父たちの投獄にも及んだ。そこで在日のあのキリスト者の仲間達は韓国・日本・カナダ・米・豪・ドイツ中心の欧州の同志をたばね、韓国民主化国際キリスト教ネットワークが構築された。

 神の平和と正義を基礎に発信したメッセージが、韓国の民主化・南北和解の政治行動を呼び起すことに寄与したと自負する。その間の日本人キリスト者、韓国の軍事政権追放された宣教師たちの国々のキリスト者と市民の連帯が大きな力となった。

 彼のノーベル平和賞が受賞を理解するのに大統領就任前の行動を知ることが大切だ。日本の新聞のベタ記事ながら、金ジョンピル元首相を北京に派遣したと報道した。すでにアメリカ側にも伝えたと思われるが、北東アジアの平和安保体制構築の打診だった。それは、南・北半島・中国・米・ロシア・日本を入れ場合によっては豪古を入れた提案六ケ国、あるいは7カ国会談構想が鍵だと伝え、アメリカもそうだったと思う。

 武者小路公秀教授(日本国際政治研究会代表)は公けの場で、覇権を競う米・中からこのような提案が出にくい、アジアの盟主だとの侵略史を総括しなかった日本からも出せないと論評し、唯一の平和構築呼びかけの可能性は植民地として支配され、冷戦分解、戦争の経験を持つ南北が手を結べば、動くだろうと語った。

 去る六月十五日付の南北和解の共同宣言は、世界の祝福を受け、朝日国交に走り始める政治の流れを創った金大統領のノーベル平和賞は、彼の苦難の歩みから始まった当然の帰語だ。日本人も在日も、この和解の仂きに参加して、北東アジアの平和構築に向かって歩めるようになった。