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2000/08/11

<在日社会>整体・空手・マジックの韓国進出を計画する3人

 村上整体専門医学院理事長ー李一男氏

 全国に14校、715人の生徒を有する村上整体専門学院・東京カイロプラクティックカレッジの理事長。「21世紀はカイロプラクティック」の時代と確信し、患者の治療とカイロドクター養成に忙しい日々を過ごしている。

 カイロプラクティックは「手の技」の意。人間は脊椎により神経が圧迫されると、体に痛みや歪みが発生する。手技で脊椎(せきつい)を矯正し、痛みや歪みを取り除くのがカイロだ。整体=カイロと考える人もいるが、微妙に違う。

 整体の多くは武道の関節技から派生し、経験として伝承されてきた。カイロは1865年に米国でD・D・パーマーが、脊椎の手技治療を医療として体系化したことに始まる。

 「柔道の選手だったが、腰を痛めてしまった。その時にカイロをやってもらって良くなった。骨接ぎは知っていたがカイロは知らなかったので興味を持ち、その後、接骨院を経営しながら米国に修行に行った。ダベンポートにあるパーマーの学校に通い、日本に広める価値があると確信した」

 最初はカイロドクターといっても存在を認められず、接骨医からサギ師よばわりされたり、新聞広告をことわられるなどの苦労をしたが、治療効果が高いことが世間の評価を得て患者が急増した。

 昨年11月には厚生大臣認可のカイロプラクティック振興協同組合を設立するとともに、NPO(民間非営利組織)法人認可を取得。さらに韓国にもカイロの学校を設立したいと考えている。

 「私は長崎県出身の在日2世。原爆を経験して、何もないところから出発することを学んだ。カイロのすばらしさを、韓国の人たちに知ってほしい。釜山に土地も取得してあるので、許可の問題などはあるが一日も早く学校を開設したい」と、思いを語る。

 極真会館館長ー文章圭氏

 極真空手は、在日1世の故大山倍達氏が創設した。真剣勝負を基礎にした武道を目標に、他流派の空手やプロレスなどの格闘技との試合も行い、勇名を馳せた。大山館長をモデルにした劇画「空手バカ一代」が、70年代に少年雑誌に連載されて爆発的な人気を呼び、入門者も急速に増えた。

 大山館長が亡くなった後、遺言により愛弟子だった松井章圭氏(37)が2代目館長となった。松井館長は在日2世で、本名は文章圭。極真空手8段の腕前で、現役引退後は後進の指導にあたってきた。

 極真空手は現在、国内80支部3万人、世界約120カ国に100万人の会員がいるが、韓国、北朝鮮、中国といった東アジアには支部がなかった。

 「大山先生の義兄が日本のテコンド連盟を創設した人だ。その方に、韓国はテコンドが地盤だから空手は進出するなと言われ、大山先生は義理を立てて進出しなかった。しかし年月も経ったし、韓日交流も進んでいる時代だから、この2、3年のうちに進出したい。故大山先生のためにも故国に足跡を残したい」と話す。

 さらに、「武道は、人間が生きるための闘争からスタートした。闘争だから肉体的にも精神的にも苦しみが多く、それを乗り越えるために理念や精神が生まれた。大山館長はそれを儒教精神に求めて、『頭は低く、目は高く、口を慎んで心広く、孝を原点として他を益する』を極真の理念とした。武道だけでなく、この理念も韓国に逆輸入してみたい」と強調する。

 空手もアジア以外の国が盛んになり、多くの強豪が輩出している。極真空手がアジアに拠点を広げ、どれだけ人材を発掘出来るか、今後が注目される。

 さらに、少年犯罪の頻発やオウムなどの事件に見られるように、日本社会では自己の生き方を見失った人が多いが、「こういう時代にこそ、自ら求めて苦しみを知る武道の価値がある」と考え、世界最強を追求する一方で、これまでの”極真=けんか空手”のイメージを変え、「老若男女が健康的に身体と精神の両方を無理なく鍛えられる武道に変身させたい」とする。

 マジシャンー引田天功氏

 プリンセス・テンコーと呼ばれる人気マジシャン。常に命がけの芸を心がけている。2年前に引き続き、今年4月にも平壌公演を行い注目を浴びた。 

 「平壌は人々の服装もカラフルになるなど、2年前に比べて国際的になった感じがした。20日間滞在したが、その時に政府要人から、『韓国の大統領が来ることになった』と聞いた。その後でお花見を取材に行ったが、あるおじいさんが『祖国統一の日が近づいた』と話すのが印象的だった。頂上会談はテレビで見たが、本当にすごいと感じた。元々が一つの国なのだから、早く一つになれればと思う」

 北で公演を行ったとき、「帝国主義国の人はどういう考え方をするのか」と聞かれ、「北朝鮮という国は、まだ戦争状態の国。戦争は自分とは関係ないと思ったが、そうではないと気づいた」という。

 「世界中で公演を行っているが、人間はみな同じ痛み、同じ喜びを持つ存在だ。一人のアーティストとして、芸を見て楽しんでもらうだけでなく、世界の人々が明るくなり、仲良くなれる一助になれればうれしい。私のショーを見て、北の人も韓国の人も楽しんでくれればうれしい。そういう積み重ねが平和につながると思う」

 平壌公演に引き続き、今年12月にはソウル公演を予定している。韓国へ行くのは初めてだ。
 「クリスマス前後に公演を行う予定で、いま最終調整中だ。20世紀最後の年なので、大規模でスペクタクルな出し物をやりたい。韓国の芸能人とも共演してみたい」
と抱負を語る。