ここから本文です

2001/11/23

<在日社会>民族信組をダメにした〝共犯者〟たち

 民族系信組の東京商銀で相次ぐ不正貸出など背任行為、業務上横領が暴露され、逮捕者まで出している。それが経営破たんの大きな要因であることが浮き彫りになった。そんな乱脈経営をしていたところに公的資金を投入してもいいのかという批判世論を呼び起こす報道が連日なされている。これは当該信用組合が責任を負うべき問題だが、在日社会に対するイメージを大きく傷つけているのも事実だ。乱脈経営を可能にした構図を検証してみると、経営者だけでなく「共犯者」たちがいることが浮かび上がってきた。これは東京商銀だけの問題と片付けることはできない。民族系信組への警鐘でもある。

 1970年代初めに詩人・金芝河は風刺詩「五賊」を書き、腐敗した権力層を痛烈に批判した。それに倣えば、今回の五賊はさしずめ①信組を私物化した独裁経営者②甘い汁を吸う理事③言いなりで名ばなりの監事④癒着した民団幹部⑤批判機能欠いた在日メディアということになろうか。

 東京商銀の場合、東京地検特捜部が最近5カ月間に及ぶ捜査を終結した。背任罪で金聖中・元理事長、ゴルフ場経営会社「アイワグループ」の種子田益夫社長らを逮捕。背任罪の立件総額は32億円にのぼる。起訴状によると、金被告らは回収の見込みがないのを知りながら種子田氏の会社に融資、東京商銀に損害を与えた。また、元池袋支店長の崔辰明氏は合計1億円を横領した建議で起訴されている。今後、裁判で東京商銀を舞台にした不正事件の全容が明るみに出るだろうが、起訴事実を認めている金被告の経営姿勢が大きく問われる。先代理事長の故許ピルソクは20余年間にわたる独裁で不透明経営がいわれ、それを踏襲したともいわれている。

 金氏が理事長になれたのは、その先代理事長の許氏の三女と結婚し、女婿の関係にあったからといわれる。当然、上級幹部は煙たがられ、辞めていった。権力を手中にし、周りはイエスマンに固められた結果、法定限度を超えようがお構いなしに勝手放題の融資が可能になった。独裁権力がつくられ、世襲化する中でおかしなことは起きがちだ。関西興銀も独裁権力と世襲化は東京商銀と同様だ。牽制機能が働かなくなるということは大きな戒めとすべきだろう。

 東京商銀は昨年12月に経営破たんしたが、すでに99年3月の段階で218億円の債務超過に陥っていた。「彼らは犯罪人だ。すでに経営破たんしているのに、それを隠してわれわれから47億円の出資を騙し取った。許せることではない」と提訴の動きがあった。同様に関西興銀では780億円の債務超過に陥ったにもかかわらず同年6月から2年間に154億円の出資を集めた。これに対して出資者ら38人(法人含む)は李熙健・前会長ら旧経営陣を相手取って出資金5億4700万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こし、「健全経営を偽った出資金募集だ」と怒っている。

 これはモラルハザートの欠如にほかならず、普段からの経営体質の表れとみていいだろう。

 理事の責任も重い。東京商銀から大分前に出資を引き揚げた不動産経営者は、「東京商銀には30人以上の理事がいるが、ほとんどが自分の会社を経営しており、有利な条件で融資を受けている場合が多い。だが、いざこんな事件が起きて自分には責任がないというのでは虫が良すぎはしないか。理事会が有名無実化し、理事長の暴走を放置した責任はある」と憤った。確かに、東京商銀では理事に対する貸出比率が高く、3年前の貸出のほぼ1割に当たる232億円が同信組の理事・監事(38人)向けで、1人当たり平均6億円だ。

 信組監事の責任も無視できない。年に1回ある総代会には理事以外の総代も参加し、事業計画・決算内容を承認するが、監査報告で異議が提起されたのは最近ではほとんどない。「厳密に監査していたなら理事長らの不正を摘出できたはずだ。形式的な監査としかいいようがない。無責任監査で理事長のいいなりでは」と指摘されている。

 最近、福井地裁で元福井商銀(現北陸商銀)の元監事が99年の総代会で監査結果を説明しようとした際、議長(理事長)に拒否され、退場させられたのは違法だとして起こした裁判で、その時の議決取り消しを求めた判決が下された。原告は、貸付限度を超える融資や役員に対する不当貸付があったと訴えた。このことが示すように監査機能は果たして正常なのかも問われている。

 民団幹部にも責任はある。在日信組は在日の金融機関であるので民団幹部の指導も必要だが、民団幹部が信組理事を兼ねるなど相互乗り入れが多く癒着的な構造がそれをできなくしているようだ。それどころか大口の融資を受けても返済しない悪質なケースもあるという。

 在日メディアも全く無縁でない。自戒を込めてだが、批判機能を果たしてきたのかという問題がある。本紙でも経験があるが、2年前に東京商銀の自己資本比率に関する記事で抗議があった。金聖中理事長自ら怒鳴り声で電話をかけるなど過剰とも思えるほど敏感だった。メディアには、不正不敗を暴き、厳しく批判する役割がある。

 五賊というには言い過ぎかも知れないが、民族金融機関を駄目にした責任を明確にし、再発を防止する戒めとしなければならないだろう。ある年配の東京商銀組合員は、「一つ提案がある。1億円以上を借り入れて返済しない人で、民族団体役員になっている人は、破たんの一因と断定し全員年内に辞任してほしい。辞任しなければ、該当する監察機関が辞任勧告、停権、除名するなど一般団員が納得いく措置をとるべきだ。悪徳者を民族社会の各種団体の役員から一掃すべきだ」と訴えている。

 在日団体を含めて自浄能力が求められているが、韓国政府や出先の駐日韓国大使館の外圧が必要との声も強い。悪徳者たちが何ら責任追及されず、平然としている状況に多くの心ある同胞は呆れ返っている。経営破たんをもたらした原因を徹底究明、責任をとってもらうなど膿を出し切って再び同じ過ちの再発を防止することが何よりも大事だ。民族金融機関は真冬の時代を迎えているが、これからは経営透明化、情報開示、監査機能強化を3大理念に生き残りを図るべきだろう。