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2001/10/12

<在日社会>アフガン報復攻撃 東アジア文明に仲立ちの役割

  • zainichi_011012.jpg

    北インド洋上の空母エンタプライズでミサイルを点検する乗組員

 米テロ事件、米英軍のアフガニスタンへの軍事行動と、世界は大きく揺れている。今回の事件は在日社会、韓半島にどういう影響を与えるのだろうか。各界の在日コリアンに話を聞いた。


泥沼化を防ぐ道を  歴史学者 姜在彦氏

 米へのテロ、アフガン空爆と続く動きを見て、泥沼の紛争になる危険性を感じる。
 ウサマ・ビンラディンやタリバンのメンバーが逮捕、または爆撃で死亡したとしても、イスラムの殉教者となっていくと思われるからだ。そうするとある意味では、キリスト教文明とイスラム教文明の果てしない衝突になる可能性がある。
 東アジアは元来、このどちらにも属さない文明を持っている。日本は歴史教科書問題などで韓国、中国との関係が悪く、対応できる体制になっていない。しかも西欧諸国に接近しすぎている。韓国、中国との関係を再構築し、抽象的になるかもしれないが、いまこそ東アジアの哲学を大切にした独自の立場で、世界平和に貢献することが大切ではないだろうか。そのために早急に韓国、中国、日本で協力体制を取ってほしい。


在日の身元確認は  大阪市立大学 朴一教授

 ニューヨークのテロ事件では在日コリアンの被害者も出た。しかし、日本のマスコミ報道は日本籍者だけに限定されており、在日コリアンへの配慮に欠けている。
 在日コリアンが外国で事件に遭遇したときに備え、民団、韓国大使館、日本政府での対応協議が必要だ。早急に具体策を検討してほしい。
 米朝関係、日朝国交正常化の動きも当面ストップせざるを得ないし、逆に米朝関係に異変が生じたとき、米国の北への報復、それと連動した在日への迫害も考えられる。
 そのような事態が生じないために、私たちの今後の努力が求められている。


国際体制作り急務  立教大学 李鍾元教授

 アフガニスタンへの米国の報復攻撃が始まった。米国の行動にはやはり無理がある。
 まず第1に国際法上の根拠が脆弱だ。国際法的にも、国連憲章の解釈からしても、武力報復が被害国の権利として認められてはいない。大国が単独で軍事力を行使し、それが正当化されていくことに危惧を覚える。国連を中心に国際的なテロ対策、対応の枠組みを作り上げることに力点を置くべきだ。
 第2に、日本も超法規的措置で自衛権の範囲を広げようとしているが、これにも疑問がある。日米同盟の観点だけでなく、東アジアの安定という視点で、韓国、中国と共同でテロに対処する話し合いをすべきだった。韓日関係が良好だったら、もう少し違う展開が出来たはずだ。韓日には来年のワールドカップ共催もある。韓国がイニシアチブを韓中日、それにASEANなどとも早急に協議し、アジアにおける協調体制の枠組み作りに着手してほしい。
 第3に南北関係に与える影響だ。北は反テロの姿勢を積極的に打ち出し、反テロ南北共同宣言を出してほしかった。


不信の除去必要  桃山学院大学 徐龍達教授

 国際的な政治の貧困が、今回のテロ事件を招いたといえる。人間の不信・不安を取り除く努力を行い、世界的な富の再分配を行う努力をしていかないと、世界の平和、経済の回復という問題解決にはならないだろう。長期的な方策と展望が必要だ。
 在日韓国人は少数者として生きてきたので、その視点で客観的に物事を見ることができる。在日の発言が大切になる時期も来るはずだ。


なぜ命を粗末に  黄千晶さん

 自爆テロを見て、祖国解放を目指すパルチザンの姿を描いた『太白山脈』を思い出した。革命や信仰がどんなに大切であったとしても、人を殺したり、ましてや自爆テロなど私には理解できない。またどうして自爆テロを指示することなど出来るのだろう。貧困や抑圧がそういう心境にさせるのなら、そういうもののない社会になってほしい。
 韓国留学しているときに、男子学生が徴兵で軍隊に行くのを見た。韓国軍が後方支援にどう関わるのか知らないが、同年代の青年たちが戦地に赴くことを考えると胸が痛くなる。


平和的な解決願う  日本野鳥の会 沈初蓮氏

 テロはあってはならないと思うが、米国の報復攻撃もいいとは思わない。テロも戦争も人命を奪い、自然を破壊する行為だ。平和的に解決する道がないのだろうか。
 そして現在はアフガニスタンで行われているが、これがもし朝鮮半島で起こったらどうなるだろう、在日4世の私はどうするだろうとの思いでテレビを見ている。韓国と北朝鮮との対話も事件の余波でストップしているようだが、一日も早い再開を望みたい。


在日は人権の声を  人材育成コンサルタント 辛淑玉さん

 テロのテレビニュースで映像を見て、もし北朝鮮の犯行だったらコリアンは町を歩けなくなるのではないかと心配した。その後にイスラム過激派のテロらしいと聞いて、今度は在日パキスタン人の友人がどうしているか気になった。
 先日、国内線の飛行機に乗ったが、搭乗券確認の際に名前を読んでくださいと言われた。本人確認のためということだが、発音で外国人かどうか調べているという。これは関東大震災の時に「一円50銭」と発音させて日本人かどうか調べたのと同じ発想だ。
 いまこそ多文化・多民族共生の社会を作らないといけないし、本来なら(差別の苦しみを理解している)在日コリアンが先頭に立つべきでだ。
 在日の団体も個人も、人権のためにもっと声をあげてほしい。「人の命が失われた悲しみを戦争に転嫁してはいけない」と。