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2002/08/02

<在日社会>在日の戦後史赤裸々に描く「夜を賭けて」完成

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    映画「夜を賭けて」のワンシーン

 戦後、在日韓国人が密集する大阪を舞台に、鉄くずを盗み出す在日集団”アパッチ族”を描いた「夜を賭けて」(原作・梁石日、監督・金守珍)がこのほど完成した。在日の会社経営者、作家、映画・演劇人が「在日の歴史を伝えよう」と、力を合わせて製作した意欲作だ。同映画は11月末、全国ロードショー公開される。

 在日の人気作家、梁石日さんの長編小説「夜を賭けて」が同映画の原作だ。戦後の混乱がまだ続いている1958年の大阪、朝鮮人密集地を舞台に、警察と張り合いながら鉄屑を盗み出して売りさばき、たくましく、かつユーモラスに生き抜く在日の人々の姿を描き出して、直木賞候補にもなった作品だ。

 これにほれ込んだ劇団・新宿梁山泊の座長・金守珍さんが映画初監督を務め、在日の会社アートンの郭允良社長が資金集めを担当、在日の映画会社シネカノン(李鳳宇社長)が宣伝を担当する。

 オーディションで選ばれた在日3世の青年やパチンコ店経営者も、大事な役どころで出演、スタッフにも新宿梁山泊所属の在日青年が多数参加しており、在日の在日による映画製作となっている。

 映画は約5億円の製作費を投じて、韓国に大規模なオープンセットを建てて撮影した。派手なアクションシーンをまじえながら、テンポよく物語が進み、破天荒な人々の生き方を通して、在日の置かれた立場、当時の日本社会の差別と偏見が語られていく。

 アパッチ族と呼ばれた一種特殊な状況下に置かれた人々の物語ではあるが、在日3、4世の青年にとっては、父母、祖父母がどんな青春を送ってきたかを知る一助にもなる作品だ。

 金守珍監督は「日本でぼくら在日が生きていくために、必死に何かに向っていく、夜や闇という見えないものから手探り状態で何かを掘り出していく姿、その闇を表現したかった。人間同士がいがみあったり、国家や民族といってがちがちになっているのは、ある意味こっけいだ。この映画は喜劇であるが同時に悲劇でもある。社会的なものでもありエンターテインメントでもある。映画のメッセージを自分なりに引き寄せて見てほしい」と話す。

 原作の梁石日さんは、「セットがそっくりで、あの当時を思い出す。エネルギーに満ちた作品なので、日本映画界にも大きな刺激を与えるだろう。登場人物のパワフルな姿を見て、身体性を失った今の若者も活力を取り戻してほしい。
映画に出てくる人物はみな実在のモデルがいる。在日の若者には、在日の歴史にはこういう人たちもいたんだと知ってほしい」と語った。

【あらすじ】
 1958年、戦後の焼け跡が残る大阪。立入禁止の兵器工場跡に忍び込み、鉄屑を運び出して売り払う「アパッチ」と呼ばれる在日韓国人の一団がいた。川沿いに集落を構えて貧しい生活を営む彼らは、警察に追われながら真夜中に鉄を掘り起こす日々を続ける。しかし、次第に取締が厳しくなり、ある日大事件が起きる。