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2002/02/01

<在日社会>「在日銀行」への道 2

土壇場で健全性重視が後退

 「おかしい。どうも解せない。金融庁はあれだけ金融機関の健全性を強調し、韓国政府が出資金の半分まで支援するドラゴン銀行を評価していたのに、なぜころっと変わってしまったのか」という疑問の声が在日社会にある。この疑問に対して、「金融庁の政策転換があったのではないか」という指摘がある。

 民団中央本部も、今回の譲渡先選定には「日本金融当局の政策的な方向転換があった」とみている。金融当局はこれまでの健全性・収益性から公的資金の最少化へと選定基準の最重視項目を移行したという分析だ。

 もっともこの民団の分析に対し、「銀行化失敗の責任をとる考えはないようだし、いわんやそれを潰した勢力への責任追及には関心がないようだ。一般団員が出資金で大変な被害を受けているのに、責任追求しない民団には怒りを覚える」(関西興銀破たんで出資金が消えた年配の組合員)と不満の声がある。

 さて、金融当局は果たして政策変更したといえるのだろうか。この問題に精通している関係者は、「明確に言えることがある。金融庁の担当者は競争入札になる前の9月の段階では、在日の声が一つになり、資本健全性があり、2次破たんがない受け皿が必要だといっていた。それが土壇場になると、競争入札である以上、国民の税金を少なく使って破たん処理したいという管財人の考えを尊重せざるを得ない、と言うことが変わってきた」と明らかにした。

 また、柳沢伯夫・金融担当相は昨年12月20日、崔相龍駐日大使に入札結果を伝えた席で、健全性はドラゴンが優越していることを認めながら、「最小限の健全性があれば公的資金が少ない方を優先した」と説明した。
さらに、東京商銀の伊澤辰雄管財人は今年1月17日、北東商銀への事業譲渡発表記者会見で、「ある程度の健全性と入札価格で選定した」と述べ、健全性は「ある程度」のレベルでいいとの認識を示した。

 このように一連の流れをみると、今回の入札結果では、健全性は優先度は後退したかにみえる。だが、それで果たして「金融システムの安定」を保証できるのだろうか。

 金融当局は、最近の永代信組の強制破たん措置にみられるように中小金融機関の破たん処理を急いでいる。特に信用組合は昨年から現在までに実に39も破たん、毎週金曜日は破たん発表日だといわれるほどだ。ここまでするのも「金融システムの安定」が絶対命題であるからであり、今回の「健全性の後退」はこの命題に明らかに反する。

 ところで、急激な破たん処理の実施時期について、「昨年秋、ペイオフ(預金の保証上限が1000万円までと利息)解禁前に経営不振の中小金融機関は淘汰してしまうという小泉内閣の基本方針が決まり、政府主導で金融再編を強力に進めることになった」(2月8日付週刊ポスト)という見方がある。

 奇しくも、この時期は在日信組処理に対する方針転換があったころと軌を一にしている。在日識者の間に「この時期から東京商銀の背任横領事件にメスが入り、総連にも捜査の手が入った。朝銀にはすでに数千億円の公的資金が流れ、いままた莫大な税金が韓国系に注がれようとしている。在日金融を見る目が厳しくなってきたことが影響しているのではないか」という声がある。

 在日の金融問題専門家は、「どうも分からない。金融当局は『金融システムの安定』のため、健全でない金融機関は潰しにかかっているのに、在日の金融機関は例外とでもいうのだろう。結果的に不安定となる可能性が強い今回の事業譲渡結果は、どうしても作為的に見えてならない」と訝った。入札結果を年末まで引き延ばしたことも何のためなのかという疑問を抱かせている。

 商銀事情に詳しい在日関係者は「例えば熊本商銀は累積赤字を抱え、4億6000万円を九州圏外からの優先出資で資本拡充したという。優先出資となれば毎年配当しなければならないが、累積赤字を抱える熊本商銀に本当にそれが可能なのか。また、すでに資本金を増資した横浜商銀と資本金集めをしなければならない北東商銀(仙台)をどう天秤にかけたのだろうか。さらには小が大を飲み込んだ近畿産業(京都)の場合はよほどの健全性がないと先行き不安だ。このように資本金集めの過程を含め、何とも奇妙で分かりにくいことが多い。金融庁は本当に事業譲受した3信組が健全性に問題はないと判断したのだろうか」と疑問を投げかけた。