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2003/02/21

<在日社会>タブーの議論 コリアン系日本人論を

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                    「世界」3月号

 月刊誌「世界」(岩波書店)3月号に、連続討論・戦後責任第3回「在日韓国・朝鮮人の国籍・参政権」が掲載された。在日韓国人の国籍・参政権問題について、在日の弁護士、大学教授、日本の学者が意見を述べたものだ。昨年日本国籍を取得した韓昌祐・マルハン会長へのインタビュー「韓民族の誇りを失わずに日本国籍を取得した」も併載されている。

 「連続討論・戦後責任」は、日本の戦争責任と植民地支配責任を日本政府と日本国民がどう捉えてきたか、未来に向けてどうすればいいかを考えるために、2003年新年号から7回に分けて連載を始めたもので、大沼保昭・東京大学教授、田中宏・龍谷大学教授、内海愛子・恵泉女学園大学教授が編者となっている。

 第3回では田中教授、大沼教授に加え、在日から高英毅・弁護士、鄭暎恵・大妻女子大学助教授の4人で報告と討論を行っている。

 田中教授はまず、「1945年12月の衆議院選挙法改正により在日朝鮮人は参政権を喪失し、1952年の民事局長通達で『在日韓国・朝鮮人、台湾人は日本国籍を喪失した』という名目で事実上剥奪した。これは日本の責任放棄を意味し、この歪んだ政策による構造がいままで続いている」と述べた。

 大沼教授は、「国民から外国人へと無権利状態に追い込んで、自分たちの好きなように支配するというものだった。その狡猾さを在日の指導部も韓国も北朝鮮も見抜いていなかった」と指摘する。

 高弁護士は、「社会保障や就職差別の撤廃を求める運動が、指紋押捺(拒否)運動という個人の尊厳の保持を求める運動に移行した。そして、たとえ外国人でも地域住民として政治的意思決定に参加できないのはおかしいという声が高まり、在日コリアンが政治参加へ一歩踏み出す地方参政権獲得運動になった」として、「公権力の支配を受けている者は、公権力に意思を反映する手段が与えられねばならないというのが民主主義(民主制)の理念だ。在日コリアンが日本での制度的従属状態を脱するためには国政参政権が必要で、そのための現実的選択肢は日本国籍を得るほかないと思う」と結論付けた。

 鄭助教授は、「多重国籍を日本が認めるかどうかも重要な用件だ」と語った。

 大沼教授は、「在日が4、5世になる時代に、日本国籍をもたない不自然さはいつまで続くのだろうか。そうした問題提起に対して在日韓国・朝鮮人の指導者層は応えるべきではないか」と述べたうえで、「他方で日本が少数者の権利を尊重する社会として、定住外国人をよりよく処遇していくことは必須条件だ」と締めくくった。


 ◆日本国籍取得した韓昌祐氏

 韓昌祐会長は日本国籍取得について、「在日が数十万票を持っていたら、(歴史教科書問題などについても)堂々と日本政府に意見が言える」としたうえで、「長年、韓国籍=愛国、日本国籍=非愛国という図式が意図的に作られてしまった。しかし、韓日双方に平等に貢献したいという未来志向の感情が強まった。日本国籍取得への拒否感は消失した」と述べた。

 そして、日本国籍取得は民族性を失わせるとの指摘に対しては、「日本国籍を取得すれば、なおさら民族教育は不可欠になる。自らのルーツである名前を変えるのは絶対に認められない。子供は、幼稚園から本名で行かせている。在日の8割以上は日本名を使っている。問題は生き方だ」と反論する。

 最後に現在の帰化制度と、自民党から出た日本国籍を届出で認めるという法案については、「私も無駄な調査が繰り返され、日本国籍取得まで1年半かかった。届出で日本国籍取得が可能になるのは、歴史的経緯からも当然のことで、本来は在日の側から提起するべきであった。その点で民団の責任は大きい。ただ、在日の中でも国籍と民族性は別物だという認識が次第に定着していき、民団の指導者や在日知識人の認識も次第に変化していくでしょう」と結んだ。