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2004/05/14

<在日社会>旧東京商銀事業譲渡後・わずか2年で巨額の不良債権・仙台エリア不正融資が発覚

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                  鄭 圭泰 理事長

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    不良取引先などが記された内部文書

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    あすか信組理事会には街宣車も現れた

 あすか信用組合の鄭圭泰理事長の突然の辞任劇をめぐって、不正融資の原因を徹底究明するとともに、徹底した浄化作業を求める声が在日社会で強まっている。特に、クリーンな透明経営実現のため、後任理事長の人選に注目が集まっている。

 2002年1月17日、旧北東商銀は、公的資金投入を受けて経営破綻した旧東京商銀の受け皿となる事業譲渡契約を結んだ。当時、北東商銀は事実上、貸出金が預金を上回るオーバーローン状態で経営難にあったともいわれていた。だが、小が大を食う形で東京商銀の事業を受け継ぎ、あすか信組として再スタートした。それからわずか2年余。健全経営をめざしたはずが、巨額の不良債権の存在が明るみになった。それは北東商銀時代の本店があった仙台エリアを中心にしたのものだった。

 外部に流出し、今回の辞任劇の発端となった内部資料「2次査定債務者区分変更リスト」(2002年9月末日自己査定)に、その仙台エリアの50の取引先の一次査定、二次査定のランク付けがなされているが、その多くが2次査定で金融検査マニュアルのC(破綻懸念先)以下に下がっている。その不良債権の中に鄭理事長の親族会社である大慶商事などへの融資分が含まれている。

 信組関係者は、「問題は職権を利用して追い貸しを繰り返し、返済可能性がないのに利子の滞納を認め、さらに引当金で償却しようとした事実である。これは明らかに業務上背任にあたる」と説明した。

 また、別の信組関係者は、「時期的にみても、北東商銀時代からすでに不良債権化していた可能性が高かったのに、なぜ東京商銀を引き受けることが可能だったのか疑問だ。当時、銀行化をめざすドラゴン銀行などとの競争入札だったが、金融庁が北東商銀に軍配をあげたのも解せない」と話した。

 いずれにしても否定しえない事実が明るみになることで、鄭理事長は4月28日の理事会で辞任を表明した。理事会は約5時間に及んだが、2003年度決算で21億円の貸し倒れ引当金を積むことで不良債権問題の決着を図る形になった。だが、当初予定していた後任理事長を決めることはできなかった。理事長就任を懇請された某理事は、「まだ何か隠されているものがあるのではないか。徹底して解明してからでないと引き受けられない」と語った。

 ここで問われているのは、まず第1に引当金を積むことで不良債権問題は解決するのかということだ。信組事情に詳しい在日識者は、「最終的には6月の総代会での承認が必要だが、鄭理事長の責任は辞任だけで済む問題ではないだろう。もし、いわれているようなことが事実ならば、これは組合員のみならず在日同胞社会全体への背信行為であり許されることではない。理事諸君は徹底して調査し全容を公表する義務があるだろう。また、鄭理事長に対しては個人資産を全部差し押さえて損害を賠償させる必要がある。民団も規約で懲戒処分すべきではないか。もう同じ過ちを繰り返すことはできない」と訴えた。

 また別の識者は「東京商銀の破綻で組合員は大変な被害を被った。その教訓は全く生かされなかった。再発防止のため監査体制を徹底的に強化すべきであり、理事人に対しては借り入れを認めないことも検討すべきだ」と強調した。

 今回の辞任劇は一方で、誰かが内部文書を流出させ、また理事会当日に「鄭圭泰理事長に30億円の不正融資」と書いた街宣車まで出ていることから経営陣内部に暗闘があった節がある。このことの意味は、鄭理事長辞任は新たな問題の始まりかも知れないことを告げるものだろう。

 第2に問われるのは、今後の透明経営を担保できる体制の構築だ。その意味で後任理事長を決める臨時理事会の決定が注目される。議長役に決まっている鄭幸男理事は、「今回の事件は、信組を正しくクリーンな方向で運営しなければならないのに何とも腹立たしい。利権を求めて上に立とうする者が多すぎる。上に立つ者は常に強く正しくなければならない」と話した。

 在日組合員のひとりは、「東京商銀、関西興銀などこれまでの相次ぐ経営破綻でもう十分だ。外部から有能な人材を登用するなど、経営陣を抜本的に変える必要があるのではないか。信組は在日にとって金融機関最後の砦だ。守っていけば将来は銀行にすることもできる。絶対に2次破綻はあってはならない」と懇願した。後任理事長に誰を選ぶかは、極めて重要な決定になるだろう。

 一方、今回の辞任劇を受け、在日信用組合関係者の間に緊張が走っている。来年4月からのペイオフ完全解禁乗り切りのため広域合併・統合作業を進めており、金融機関の合併・統合促進などのため制定される公的資金新法で2兆円の保証枠が設定されるタイミングもあり、影響を懸念しているからだ。

 理事長を辞任した鄭圭泰氏は今回の事態に対して次のようにコメント。

 4月28日の2003年度決算承認理事会で、大幅な赤字決算並び無配となった責任を取り辞任した。赤字決算の要因については、不良債権処理に伴い多額の貸し倒れ引当金の計上を余儀なくされたためであり、財務内容の健全化が図られたこと、及び不良債権の抜本的処理により今後の業績についてはいささかの不安はないと考えている。とはいえ、理事長の責任は免れるものではなく引責辞任を決意した。

 後任人事については5月中に理事会を招集し決定する予定だが、組合員、預金者などへの影響を考慮すれば、経営の継続性を確保することが最も肝要と考え、定款に沿った方向で調整中だ。