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2004/04/16

<在日社会>朝鮮通信使舞台の悲恋物語・『つばめ』5月韓国公演

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    記者会見に臨む柳珍桓文化院長、ジェームス三木氏、椿千代さん、仲尾宏氏(左から)

 日本のわらび座のミュージカル「つばめ(チェビ)」が、来月6日から15日まで、韓国3都市(ソウル・光州・釜山)で上演される。朝鮮通信使を素材にした日本人制作のミュージカルが韓国で上演されるのは初めてのことで、韓日文化交流の大きな一助にと期待されている。

 「つばめ」は、韓日国民交流年の2002年8月に初上演され、以来現在まで全国270回公演したロングランミュージカル。今年7月まで上演予定されているものを入れると全320回公演となる。

 今回の韓国公演は、韓国演劇界の重鎮で韓日文化交流にも貢献してきた金明坤氏(『風の丘を越えて-西便制』の旅芸人役で有名)が、『つばめ』を見て感銘を受け、バックアップを約束したことで実現した。

 韓国公演を控えて、演出・脚本のジェームス三木氏ほか出演女優らが、東京の日本記者クラブで記者会見を行った。

 ジェームス三木氏は、「“文を以って武に報いる”尊い精神を持った朝鮮通信使に対する畏敬の念から、この作品を作ろうと思った。そして歴史から抹殺されてしまっている彼らのことをもっと知ってもらいたかった。この作品が日韓交流に寄与できればうれしい」と語った。

 また、主演の椿千代さんは「2人の夫、2つの祖国の間で揺れるお嚥という役を270回(1年8カ月)も演じることで、役柄とはいえ他人とは思えない感がある。観た人からは、『本当は韓国人ではないのか』とか、『一体二人の男性どちらが好きなの』と聞かれたりした。韓国公演にあたっては、連行された韓国人女性を演じた自分を、韓国の観客がどう見てくれるか、日本での公演とはまた違った緊張感がある。“文化で国境を越える”ことに挑戦していきたい」と語った。

 また歴史学者の仲尾宏さんは、「この物語には裏付けがある。秀吉の朝鮮侵略では8~10歳の女の子も数万人連行され、帰国できたのは2000人ほど」と説明した。

 柳珍桓・韓国文化院長は「この作品を通して日本と韓国の関係がさらに良くなるだろう。大切な懸け橋の役割を果たしてほしい」と述べた。

 わらび座は日本の民族伝統をベースに、多彩な表現で現代の心を描く劇団。民謡の宝庫と呼ばれる秋田県田沢湖町を本拠地とし、現在5つの公演グループで年間1000回以上の全国公演を行い、海外公演も韓国・米国・ヨーロッパなど16カ国で行っている。

 また10月には、韓国・国立劇場所属の国立唱劇団によって韓国版「つばめ」(李潤沢演出)がソウルで10日間上演される予定で、現在翻訳作業が進められている。

 また、韓日国交回復40周年「韓日友情年」の記念年である2005年には、韓国版「つばめ」の日本公演、さらにはドイツ・ベルリンで行われる演劇フェスティバルである「アジア大陸週間」への出演も決まっている。

◆ ストーリー ◆

 豊臣秀吉によって国土を踏みにじられた朝鮮国は、秀吉の死後に天下を掌握した徳川家康の国交回復要請に応えて、500余の文化使節団(朝鮮通信使)を日本国に派遣した。文を以って武に報いたのである。その一人、李慶植は宴の席で思いがけなく10年前に水死したはずの妻に再会する。しかし、お燕とよばれる春燕はすでに彦根藩士の武士水島善蔵との間に子をなす身になっていた。2つの愛と2つの国のはざまで苦悩するお燕の姿を描く。