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2004/02/06

<在日社会>裁かれた「東京商銀」舞台裏で乱脈

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                    金 聖中 元理事長

◆ 金聖中元理事長に実刑5年 地位乱用私物化 公金横領・不正融資 ◆

 「懲役5年の刑に処す」。経営破たんした在日韓国人信用組合「東京商銀」元理事長の金聖中被告(54)の業務上横領、背任罪に対し、1月26日、東京地裁(大島隆明裁判長)は厳しい判決を言い渡した。約32億円もの乱脈融資、約8784万円の公金横領の責任を厳しく問いただした執行猶予なしの実刑判決で、在日社会への波紋は大きい。判決文の読み上げは2時間に及んだが、そこには東京商銀の不正融資、乱脈経営の知られざる舞台裏があった。

 2000年12月の東京商銀の経営破たんは、在日社会全域に甚大な被害を与えた。同年3月時点で出資者は2万8849人(出資金101億5200万円)に及び、大きな衝撃だった。検察の捜査過程で被告である金聖中・元理事長の業務上横領や不正融資が明るみになり、裁判所は悪質と判断、執行猶予無しの実刑判決を言い渡した。

 裁判長は判決文で、「被告人は東京商銀の実体や自己の職務違反を隠蔽し、自己の地位を守ろうとする姿勢が顕著であり、また関連会社であるペーパーカンパニーで利ざやを稼ぎ、その資金を横領したり、公私混同がはなはだしく、さらには種子田に勧められて東京商銀から資金を出させるなどして投機的な株取引にまで手を出している上、問題が発覚する前後には自己名義の資産を親族の名義に変更するという、資産隠しと疑われてもやむを得ないような行為もしており、信用組合の理事長としての自覚を欠いていたものといわざるを得ない。厳しい批判は免れず、その刑事責任は重い」と強調し、被告の主張を全面的に退けている。

 まず背任事件は99年5月から2000年4月ごろにかけて、株式会社ドルフィン・リビング及び株式会社アイワコーポレーション、株式会社パルパルを経営していた種子田益夫被告に、同社に返済能力も十分な担保物件もないことを承知しながら約32億円もの融資を行い、東京商銀に同額の損害を与えたものだ。

 この不正融資の背景には、崔泰源・元東京商銀理事らが95年に起こした組合員代表訴訟がある(別掲)。金聖中被告の義父の許ピルソク元理事長の代から2代続いて松本祐商事に約68億円もの不正融資を行い、その責任を問われた訴訟で、巨額の損害賠償を求められていた。金被告はこの裁判について、「夜も眠れないほど心配」な状態が続き、「代表訴訟で問題とされていた松本祐商事に対する不良債権を東京商銀から他に債権譲渡をするという、いわゆる不良債権の飛ばしを行うに当たり、種子田の経営する会社に債権買取資金を融資し、その融資金によって不良債権を買い取らせた見返りとして融資を行った」。

 さらに判決文では、「東京商銀の職員らが、理事長である被告人の指示にもかかわらず、融資に消極的な姿勢で種子田とねばり強く交渉を続けていた最中、種子田から融資を買い取って欲しければすぐに16億円を融資するように迫られるや、東京商銀にさらなる損害を負わせる恐れの大きい融資を実行した」と述べている。つまり、きちんとした担保物件がないことを心配した融資担当者が、何度も金被告に融資を思いとどまらせるよう説得したにもかかわらず、その反対を無視して理事長の権力で融資を強行したのである。

 裁判長は、「本件不正融資の動機となった代表訴訟で一部敗訴し、東京商銀の申立に係る強制売却により自宅を失っていること、その他被告人の健康状態など、諸事情を考慮しても懲役5年が相当である」と実刑判決を言い渡した。金被告は少しうなだれたまま、神妙な面もちで判決言い渡しを聞いていたが、即日控訴した。

 商銀の経営破たんで出資金が紙くずとなり財産を失った組合員からは、今回の判決で明らかになった経営破たんに陥った真相の一因を聞いて、「改めて不信と怒りを感じた」「こんな乱脈経営を放置した商銀の怠慢理事や監査機関、関係者の責任はどうなるのか」「執行猶予付きになるとの見方もあったが、襟を正した判決だろう」などの声が挙がっている。

◆ 着服横領の手口読み上げに1時間 ◆

 金聖中被告の業務上横領に関する手口は、交際費の着服、他の商銀から印刷代金などのために送られてきた資金や出向費などの着服、ペーパーカンパニーを使った利ざや稼ぎなど悪質極まりないもので、その使途も①家族の生活費、デパートで買い物をした代金②韓国への旅行代金③ひいきにしていた韓国人女子ゴルファーの日本でのアパート家賃と家財道具購入費などで、95年から2000年にかけて約8784万円の横領着服が行われている。これに関する判決文を裁判長が読むだけでも1時間かかったほどで、商銀の資金がまるで自分の財布のような状態であったことが判明した。

 被告人はこれを、「諸処の活動・交際を行うための費用、すなわち『機密費』を捻出するためのものであり、その機密費は『在日社会は特殊な社会で韓国政府関係者、在日韓国民団関係者、在日メディアなどを接待し業務を円滑に行うために必要だった』と主張したが、裁判長はこの申し立てを一蹴した。

 ある組合員は、「在日社会の特殊性などと責任転嫁もはなはだしい。女子ゴルファーの件は以前からうわさはあったが、日本の裁判で指摘されるなど恥の上塗りだ」と怒りを露わにした。

◆ 松本祐商事不正融資裁判 60億円賠償を認める ◆

 10年越しの裁判となった組合員代表訴訟は、1月23日の東京地裁で、①金聖中被告ら旧経営陣がRCCに対し約60億円の賠償義務を認める②金被告が在日社会に謝罪することで和解が成立した。この裁判で、問題の種子田益夫被告への融資の動機も明らかになった。

 この事件は東京商銀の理事長代表理事であった許ピルソク氏(94年11月9日に死去)と東京商銀本店理事長であった金聖中被告(許ピルソク氏の娘婿)とが松本祐商事へ、フェニックス、日本ゴルフ信販などの関連会社の名義をも利用して法律による大口融資規制を回避しつつ融資を行っていたもので、約68億円もの回収不能の債権を生じさせ、組合員に多大な損害を与えた。

 95年に損害賠償請求事件として崔泰源・東京商銀元理事らによる組合員代表訴訟が起こされ、東京地裁は2001年5月31日に金聖中・東京商銀前理事長と故許ピルソク・元理事長の遺産相続人の一人である阿施光浩選定当事者に対して、連帯して5億円の損害賠償金を同組合(金融整理管財人)に支払うよう命じた判決を言い渡していた。

 2審でも同様の判決となったため原告側は、1審の5億円を除いた残り約60億円の賠償を求めて上告、最高裁が2003年6月、「破たん後も組合員は訴訟を継続する権利がある」として、審理を差し戻していたものである。

 この和解について原告側代理人は、「RCCに対して(金融整理が終わって請求は金融整理管財人からRCCが引き継いだ)、60億円の賠償を認めさせたことは意義深い」と話した。

 このように東京商銀の経営破たんをめぐる一連の事件では、商銀の私物化、それを許した怠慢理事や監査機関、在日社会の監視風土欠如などが厳しく問われた。

 「事件の真相や破たんについて組合員に文書での説明も謝罪文も見たことがない」「金聖中被告は隠し財産があれば明らかにし、目で見える形で在日社会に心から謝罪すべきだ」「在日社会に自浄能力がないから、日本の司直の手が入った。今後、民族金融機関は情報開示をしっかり行ってほしい」などの声が寄せられている。