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2006/11/17

<在日社会>映画界に在日旋風

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    『酒井家のしあわせ』 (c)「酒井家のしあわせ」フィルムパートナーズ

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    『The 焼肉ムービー プルコギ』 (c)2006プルコギ製作委員会

 在日コリアン映画監督の活躍が目立っている。在日3世の李相日監督の『フラガール』は大ヒットを記録、同じく在日3世の呉美保さんは初監督作品『酒井家の幸せ』が、年末に全国公開される。具秀然さんや朴壽南さんも新作を来年公開する。

 在日3世の呉美保さん(オ・ミボ、29)が脚本・監督を担当した『酒井家のしあわせ』は、年末にロードショー公開される。呉さんは三重県出身で大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業後、大林宣彦事務所に入社。スクリプターとして働きながら、短編映画の制作に携わった。

 初の長編脚本『酒井家のしあわせ』(原題・ヨモヤマブルース)が、2005年「サンダンス・NHK国際映像作家賞・日本部門」を受賞し、2005年春に映画化決定、今年3月完成した。

 「芸達者な役者が集まってくれたし、出来には満足している。将来は在日をテーマにした映画を作ってみたい。在日は日本でも韓国でも居場所のない浮遊した存在だと思う。その浮遊している気分、今の在日の青年のリアルな気持ちを表現してみたい」と述べる。

 解放後、民族運動に携わってきた父の姿を追ったドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』を作ったのは在日2世の梁英姫さん。(ヤン・ヨンヒ、41)帰国事業で北朝鮮に渡った兄たちの姿や、父を支えてきた母の姿などが描かれ、家族とは何かを問いかける。

 8月に公開されて話題となり、ドキュメンタリー映画としては異例のロングランを記録。これまでに1万人を動員した。年末から九州、東北などでも公開される。また、23日からソウルでも上映。著者が書き下ろした「ディア・ピョンヤン」(アートン)も好評で、重版が決定した。

 在日3世の李相日監督(イ・サンイル、32)は新潟県出身。日本映画学校で映画を学び、卒業制作作品『青~chong~』(99年)がぴあフィルムフェスティバルでグランプリを含む史上初の4部門を独占して話題を集めた。

 その後、『BORDER LINE』(02年)、『69 sixty nine』(04年)、『スクラップヘブン』(05年)と話題作を監督し、今回『フラガール』が大ヒットした。

 昭和40年、本州最大の炭坑・常磐炭坑で大幅な人員削減が迫り、町を救うためにフラダンスショーを始める物語。ダンスシーンの迫力、冨司純子、松雪泰子、蒼井優の3女優の魅力を引き出した李監督の演出が高く評価されている。

 ソニーのハンディカムなど大ヒットCMを制作した、CMディレクターの具秀然さん(グ・スヨン、45)は、下関出身の在日2世。数年前から映画監督にも挑戦し、『偶然にも最悪な少年』などを作っている。

 その具監督の最新作は、究極の焼き肉バトルを描いた『プルコギ』(焼肉の意)。幼いころに韓国で母を亡くした兄弟が、離れて暮らし成長、偶然にもテレビ番組で焼き肉対決を繰り広げるストーリーだ。

 人気タレントの山田優、俳優の松田龍平らが出演する。映画は来年公開予定で、漫画化も決まっている。

 91年に従軍慰安婦問題をテーマにしたドキュメンタリー映画『アリランのうた-オキナワからの証言』を制作した朴壽南さん(パク・スナム、69)は、沖縄での集団自決の問題を取り上げた新作の撮影に、今年初めから取りかかり、先ごろ完成させた。

 朴さんは「アリランのうた」完成後、大腸がんで生死が危ぶまれる状態が続いたが、幸い病状が回復し、今回の映画制作にこぎつけた。「高齢となった集団自決の証言者が、生きている間に映画を撮らないといけないと考えた。制作費を工面しながらの作業となった。上映に向け多くの人の支援をお願いしたい」と、朴さんは話している。

 在日の映画監督はほかに、『血と骨』がヒットし、現在日本映画協会会長を務める崔洋一監督(チェ・ヤンイル、57)、記録映画『在日』の呉徳洙さん(オ・ドクス)、在日の戦後史を描いた『夜を賭けて』の金守珍さん(キン・スジン、52)、自分の家族を追った『あんにょんキムチ』を作った在日韓国人の父と日本人の母を持つ松江哲明さん(29)、川崎の在日高齢者の生き様を記録した『花はんめ』の金聖雄(キム・ソンウン)さん、在日女性と日本人男性の恋愛を描いた『潤の街』の金佑宣さん(キム・ウソン、51)、『千の風になって』の金秀吉さん(キム・スギル、45)などがいる。

 在日としての視点を生かしながら、今後どういう映画を発表してくれるか楽しみだ。