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2006/05/19

<在日社会>共同声明発表・反目、対立から和解、和合へ

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    共同声明署名後、河丙鈺・民団団長(中央左)と徐萬述・総連議長(同右)が笑顔で抱き合った(17日、東京・千代田区の総連中央本部で)

 在日本大韓民国民団(民団)の河ビョンオク団長と在日本朝鮮人総連合会(総連)の徐萬述(ソ・マンスル)議長が17日、東京・千代田区の朝鮮総連中央本部でトップ会談を開き、民族団結のために和合し、協力関係を構築していく「5・17共同声明」に署名した。半世紀以上に渡って対立してきた両団体は、声明発表で新たなスタートを切ることになるのか、在日はもちろん日本社会も注目している。

 河ビョンオク団長、金廣昇(キム・グァンスン)議長ら民団の代表団7人が17日朝、総連中央本部に到着すると、徐萬述議長、許宗萬(ホ・ジョンマン)責任副議長ら朝鮮総連の幹部約50人が玄関で出迎えて握手を交わした。約200人のマスコミ関係者でごった返す中、両団体の幹部それぞれ7人が出席して約30分間の会談を行った。

 河団長は、「50年間が過ぎて、やっとこういうことになった。今日は歴史的な日で忘れないように記憶したい」とあいさつ。徐議長は「同じ心境だ。過ぎ去った時代の蓄積の上に今日がある」と述べた。また河団長が徐議長に民団中央本部を訪問することを要請、徐議長は前向きな姿勢を示した。

 両代表が共同声明署名後に笑顔で抱き合うと、大きな拍手が起きた。声明では「民族的団結と統一に向かう民族史の流れに沿って、両団体間で長い間続いてきた反目と対立を和解と和合に確固として転換させることを互いに確認した」として、今後の協力関係を確認した。

 6月15日に韓国・光州市で開かれる民族統一大祝典に代表団メンバーとして共に参加、光復節の記念祝祭を共催することを確認したほか、民族教育、福祉活動、権益擁護などでも協調していく。また協議機構を設置することも確認された。

 総連は解放直後に作られた在日朝鮮人連盟を母体に1955年に設立。民団は朝鮮人連盟の左傾化に批判的な朝鮮建国促進青年同盟(建青)らによって、1946年10月に結成された「在日本朝鮮人居留民団」が母体。

 韓国支持の民団と北朝鮮支持の総連は、南北対立を背景に激しく反発。50年代末の在日同胞の北朝鮮帰還運動では、運動を促進する総連と反対する民団が大きく対立した。

 また90年代に入り、日本社会での共生を進める民団が地方参政権獲得運動を推進すると、総連は「日本への同化」につながるとして、地方参政権獲得反対運動を繰り広げてきた。2000年6月に初の南北首脳会談が行われ、南北融和が高まった後も、在日組織の交流は遅れていた。

 今年2月に民団中央団長選挙で、河団長が「改革民団」を訴えて当選後、朝鮮総連との和解・和合を進めていた。

◆在日の利害共通 姜在彦さん(カン・ジェオン、79、歴史学者)

 「在日社会にはこれまで眼に見えない軍事境界線があった。本来助け合うべき在日同胞が逆にののしりあう姿を見せたことは、2、3世の民族的自尊心を奪うことになってきたし、日本社会に対し”在日の品格”を疑わせることにもなってきた。不毛な対立が無くなるのは大歓迎だし、同胞社会が真に助け合っていく契機になればと思う。権益擁護などで日本政府と交渉するときも、両者が力を合わせれば影響力が強まるだろう。在日の利害は本来共通しているはずだ。違いよりも共通点を見出す努力を進めてほしい」

◆政治参加道筋を 高英毅さん(コ・ヨンウィ、48、弁護士)

 「民団と朝鮮総連の対立は両団体のみならず、在日コリアン社会全体を消耗させてきた歴史をもつ。両団体は在日コリアンのサイレントマジョリティーの声を反映させることが出来なかったし、日本社会に対する意思表明もしっかりと出来てこなかった。今後、共同声明の具体的実現に向けて努力してもらいたいし、特に日本社会への政治参与について踏み込んだ方針を出してもらいたい」

◆具体的成果を 姜誠さん(カン・ソン、48、フリージャーナリスト) 

 「両組織の対立に失望してきた多くの在日同胞は、半信半疑で見つめているだろう。在日社会は多様化し、国家や組織への帰属意識は少なくなっている。民団、総連の在日社会における存在感も減っているのが現状だ。今後実効性のある方針を打ち出さないと、両組織への失望感が逆に大きくなる。多文化共生社会づくり、民族教育で具体的方針を示してほしい」


■共同声明全文■

 在日同胞と内外の大きな期待と関心の中で2006年5月17日、在日本大韓民国民団中央本部河ビョンオク団長をはじめとする代表が、在日本朝鮮人総連合会中央本部を訪問した。河ビョンオク団長をはじめとする民団中央の代表と徐萬述議長をはじめとする朝鮮総連中央の代表の間で歴史的な出会いを果たし会談を行った。

 民団と朝鮮総連は会談で、6・15共同宣言が明らかにした「わが民族同士」の理念にしたがい、民族的団結と統一に向かう民族史の流れに沿って、両団体間で長い間続いてきた反目と対立を和解と和合に確固として転換させることを互いに確認した。

 民団と朝鮮総連は新時代の要求と同胞の志向に沿って仲睦まじく豊かな在日同胞社会をりっぱに建設し、21世紀に祖国の統一と繁栄のための民族的偉業に大きく貢献していく意志を表明しつつ、つぎのように合意した。

 ①民団と朝鮮総連は両団体の和解と和合を成し遂げ、在日同胞社会の民族的団結のために互いの力をあわせて協力していくことにした。

 ②民団と朝鮮総連は6・15南北共同宣言を実践するための民族的運動に積極的に合流し、6・15民族統一大祝典に日本地域委員会代表団のメンバーとして参加することにした。

 ③民団と朝鮮総連は8・15記念祝祭を共同で開催することにした。

 ④民団と朝鮮総連は昨今、在日同胞社会で民族性が希薄化し失われる現象が増えている深刻な現実に目を向け、民族性を固守し発揚させるために新しい世代の教育と民族文化の振興などの事業に共に努力していくことにした。

 ⑤民団と朝鮮総連は同胞社会の高齢化、少子化対策をはじめ諸般の福祉活動と権益の擁護、拡大のために互いに協調していくことにした。

 ⑥民団と朝鮮総連は以上の合意事項を履行し、両団体の間で提起される問題を解決するために窓口を設置して随時協議していくことにした。


■解 説■

 半世紀の対立に終止符を打つべく、民団、総連のトップ会談で共同声明を発表した意味は大きい。両トップは「歴史的だ」と抱擁するなど、和解を演出したが、記者会見も無く、集まった200人の報道陣は拍子抜けした。

 今回の共同声明発表を、北朝鮮との融和政策を推進する韓国政府、政治・経済的苦境からの脱却を目論む北朝鮮の意向が大きく働いたと見る在日識者も多い。

 発表が唐突であり、トップダウン方式の共同声明であるだけにそう見られても仕方ない部分があるが、「これ以上対立を続けないで」という在日社会の声が大きく作用したことも見逃せない。問題は今後、共同声明の文言をどう具体化するかだろう。

 6月に韓国・光州で開催される「統一大祝典」への参加、祖国解放記念日の「8・15祝祭」の共催というセレモニー的事項の合意はあっても、民族教育、在日高齢者の無年金問題、権益擁護など多くの在日が切望する日本社会で生きる上での課題については、具体的合意がない。今後窓口を設置し取り組んでいくとのことだが、多様な在日のニーズに応えるべく、両団体はもちろん広く在日識者の声を集めた協議機構を設置することが大切だ。

 また、今回の共同声明発表にあたっては、民団が取り組んできた在日外国人の地方参政権獲得運動、北朝鮮からの脱北者を支援する活動、総連系同胞対象の韓国訪問運動の3点を中止することが、総連サイドから要求されたという。民団側は地方参政権獲得運動以外は中断することにし、今回の発表となったようだ。脱北者支援中断については、民団内部での反対意見もあったといわれている。

 特に地方参政権獲得運動は、民団が重要課題としてあげており、河団長も「任期中に必ず実現する」と公約している。共同声明ではこの点に一切触れられていない。今後どう対応していくのかが注目点だ。

 民団と総連のトップ会談は実は1960年代初め、韓国が4・19革命を成功させて統一への気運が高まる中、 民団と総連のトップ会談は実は1960年代初め、韓国が4・19革命を成功させて統一への気運が高まる中、当時のチョ・ヨンジュ民団団長と韓徳銖(ハン・ドクス)総連議長が非公式に行った事実がある。

 しかし会談は1回で頓挫し、2回目は開かれなかった。その轍を踏んではならないだろう。

 そのためにも、在日社会、日本社会に対しどういうメッセージを送るかが大事であろう。共通の理念提示にむけ、在日の意思に沿った自主的な在日組織といえる力量を発揮すべきである。