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2006/02/03

<在日社会>韓国文学作品、相次ぎ翻訳出版

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 韓日文化交流が進む中、日本であまり知られていない韓国の詩人や作家の日本語訳が相次いで出版されている。韓国文学界への理解を深めることができる貴重な作業だ。

 「朝鮮近代文学選集=1 無情」(平凡社)は、朝鮮文学初の近代長編小説「無情」の初めての完全日本語訳。原作者は植民地から解放に至る時代を生きた李光洙。

 植民地朝鮮の近代化と独立をめざして書かれた作品で、ストーリーは苦学してようやくソウルの英語教師になった李亨植に、資産家の娘との婚約と米国留学の話が舞い込む。一方、李がかつて思いを寄せ、いまは妓生に身を落とした恩人の娘、朴英采が彼を訪ねてくるが…というもの。

 朝鮮の近代化と現実のはざまで苦しむ作者、李光洙の苦悩が、主人公の苦悩に投影される。植民地時代の生活風景も詳細に描かれている。

 李光洙は日本で学んだ独立運動家でもあり、三・一独立宣言に名を連ねた。しかし、植民地末期には親日行為を行い、解放後は「親日文学者」の烙印を押され、裁判にかけられた。その後、韓国戦争時に北朝鮮に連行され、行方不明になった。1991年に米国在住の息子が北朝鮮を訪問し、1950年の江界で死亡したとの説明を受けた。

 「朴ヨンチョル詩選」(花押社)は、韓国現代詩の礎を築いたとされる詩人、朴ヨンチョルの詩45篇とエッセー1篇を収録した初の日本語版詩選集である。翻訳は李承淳氏。

 1904年全羅道に生まれ、日本植民地時代を生きた朴は、詩人・翻訳家・劇作家・文芸運動家・雑誌編集者として韓国文壇に新たな道を切り開いた。「詩文学」を創刊して韓国の詩をそれまでの近代詩の次元から本格的な現代詩の次元に脱皮させる役割を果たしている。一方、戯曲の創作・翻訳活動にも力を注ぎ、「劇芸術」の発行を通して演劇家の交流を促進した。民族の情を根本に、時代に対する切ない感情を歌った「果てしなき船出」など、朴の詩世界に浸ることができる。
 
 「争いのなき国と国なれ 日韓を詠んだ歌人・孫戸妍(ソン・ホヨン)の生涯」(英治出版)は、韓国の女流歌人・孫戸妍女史の生涯を描いたノンフィクション。

 孫女史は戦前・戦中の日本に留学し、当時の短歌界の最高峰・佐々木信綱に師事、韓国人でありながら日本語で流ちょうな和歌を詠む希有な歌人として韓日両国で活躍した。その歌には、夫や子への慈愛に満ちた歌もあれば、南北朝鮮の動乱の世を詠んだもの、そして「二つの祖国」である韓国と日本の友好を願った歌もある。

 著者の北出明氏は孫女史と長年交流を重ねてきた。孫女史の存在を広く知らせ、韓日の相互理解に役立てたいとの願いで書き上げた。表題にもなった「争いなき国と国なれ」に、植民地、祖国解放、南北分断という激動の時代に翻弄された孫女史の、平和への願いが集約されている。