ここから本文です

2007/05/18

<在日社会>映画『パッチギ!LOVE&PEACE』・在日の歴史伝えたい

  • zainichi_070518.jpg

    『パッチギ!LOVE&PEACE』より(c)2007「パッチギ!LOVE&PEACE」パートナーズ

 朝鮮学校生のキョンジャとその兄アンソンの青春を、1968年の京都を舞台に描いた映画『パッチギ!』(井筒和幸監督)の続編『パッチギ! LOVE&PEACE』が、19日から全国公開される。前作から6年ごとなる74年の東京・枝川を舞台に、キョンジャとアンソンのその後を骨太に描いた作品だ。井筒監督に話を聞いた。

 ――芸能界入りして日本人の芸名を付けたキョンジャが、出自を隠し続けることに悩むシーンが印象的だ。

 芸能界は保守的で日本社会の縮図ともいえる。生きるため芸能界やスポーツ界に身を投じた在日は多いが、なかなか自己を明らかに出来なかった。日本社会の差別が1世を苦しめ、2、3世にも出自を隠すことを強いてきたと言ってもいい。

 以前、人気ロックバンド「キャロル」のメンバーだったジョニー大倉が在日であることを明らかにしたが、彼はその後仕事が激減し、「名乗らなければよかった」と後悔することになった。

 キョンジャの姿を見て、差別とは何か考えるきっかけにしてもらえればと思った。日本の芸能界への皮肉も込めた。

 ――監督はデビュー作の『ガキ帝国』でも在日を主人公にするなど、在日コリアンを重要な要素として描いてきたが、その動機は。

 私は奈良県出身だが、小学生の頃、近所に在日の家庭があってそこの子どもと遊んだ記憶があるし、高校時代は日本の高校生と朝鮮学校生をよく見聞きして、なぜ日本に在日と呼ばれる人たちがいるのかと考えたりした。パク・アンソンという朝鮮学校のサッカー部にいた暴れ者の少年と知り合いになったが、彼の姿がとても印象的だった。それらの経験が、『ガキ帝国』『パッチギ!』、そして今回の作品につながっている。在日の家族を描くことで、日本社会が見えてくる。

 ――日本の高校生と在日の女子高生の恋愛を描いた前作と違い、今回は日本の植民地支配、戦争賛美の問題などがストレートに表現されている。

 前作はメルヘンとでもいうか、こうあってほしいという願いを込めた青春群像映画だった。今回はより濃密なリアリティあふれる物語にしたかった。日本人は在日のことも植民地支配の歴史も何も知らずに来た。それでいいのかというアンチテーゼ、そして戦争映画に出演したキョンジャの苦悩を通じて、戦争を反省していない日本社会への批判も込めたつもりだ。

 また70年代の日本は閉塞した社会で、人の心が冷たくなった、軽薄な文化が広まり、格差社会の始まった年でもあると思う。それらの矛盾が今日にもつながっている。そういう閉塞した時代状況も描きたかった。人が生きている意味、そして涙を流すことの意味を伝えたい。

 ――在日の映画ファンは第3作への期待も持っているが。

 今回の撮影が終わったばかりで、次のことはまったく考えられない状況だ。ただ在日の戦後史にはまだまだ描かれていない部分がたくさんある。それらを研究してみたいとは思っている。

■あらすじ■

 前作から6年後、キョンジャと兄のアンソン、オモニ(母)の3人は、京都から東京都江東区枝川の在日コリアン密集地に住む叔父の元に引っ越してきた。難病の筋ジストロフィーを患ったアンソンの息子チャンスの治療のためだ。アンソンは様々な仕事に手を出し、一方キョンジャは芸能界入りを目指してプロダクションに所属するが…。2人の青春に加え、アンソンの父親が植民地時代に日本軍に追われるエピソードも同時進行し、日本と韓半島の現代史を描く。


  いづつ・かずゆき 1952年奈良県生まれ。高校時代から映画制作を開始。75年高校時代の仲間と「新映倶楽部」設立。85年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞受賞。主な作品に『岸和田少年愚連隊』『ゲロッパ!』など。『パッチギ!』で2006年度日本アカデミー賞優秀作品賞、監督賞など受賞。