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2009/09/11

<在日社会>カムイ外伝・崔洋一監督、「混乱と混沌の中を生きぬけ」

  • カムイ外伝・崔洋一監督、「混乱と混沌の中を生きぬけ」

    チェ・ヤンイル。1949年長野生まれ。81年監督デビュー。『月はどっちに出ている』で53にわたる映画賞を受賞。『血と骨』で日本アカデミー最優秀監督賞ほか受賞。現在、日本映画監督協会理事長、宝塚造形芸術大学教授を務める。

 在日2世の崔洋一(チェ・ヤンイル)監督が、映画『カムイ外伝』を完成させた。白土三平の人気漫画を映画化した作品で、崔監督は、「混沌と混乱の時代に生きる若者たちにカムイの生き様を見てほしい」と強調した。

 ――映画で訴えたかったことは。

 この映画は単純に言えばエンタテインメント作品だが、エンタテインメントだからこそ人々に伝えられると思っている。掟に縛られたカムイが、掟と対峙しながら自由を求める姿、殺傷をしたくはないが殺さざるをえないカムイを描いた。映画の中のカムイは、自己完結できない若者だ。行動様式は単純でも、その奥に流れる深く暗い内面を画面に出そうと考えた。

 ――「カムイ伝」「カムイ外伝」を読んで、差別と闘うことの大切さを教えられた在日の若者もいると聞いた。監督はいつ読み、どう感じたか。

 当時高校生だったが、雑誌「ガロ」に連載されているときに読み、衝撃を受けた。だが自らの出自と特に関係付けながら読んだわけではない。心の中の「在日」が、出てくるときも出てこないときもある。人には民族を意識しながら生きる部分と、そうではない部分が共存しているからだ。

 私は父が在日1世、母が日本人のダブル。いわば複合的な存在だ。帝国主義の侵略がなかったら自分は生まれなかったともいえる。社会的差別はどこの国にもある。ある権力構造とそれに従う没主体的な人たちで社会が成り立っているというのは、子どものときから体感していた。

 ――在日や日本の若者にどう見てほしいか。

 まず楽しんで見てほしい。映画の冒頭で「冷たい壁」というセリフが出てくる。得体の知れない壁とは何か、その壁が人を鍛える面もある。国際社会が変化し、東アジアも大きく変わる中、在日社会も旧来の理念にとらわれず、現実主義の中での希望というアプローチを大切にしてもらいたい。混乱と混沌のただ中にいると、逆に認識しにくい面がある。歴史が動き始めるとき、台風の目の中にいるようなものだ。混乱と混沌の中で、若者たちはどう生きるか、それが映画のメッセージともいえる。

 ――「カムイ外伝第2部」、また「カムイ伝」を将来映画化したいとか。

 今回、アジアマーケットも視野に入れて作った。カムイの生き様は、アジアでも共有されるはずだ。次回はアジア資本に参加してもらい、アジアの俳優が結集する多国籍な映画になるだろう。