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2009/12/11

<トピックス>LEDテレビ・サムスンの訳あるシェア                                                        ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 所長

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 所長

    キム・ゲファン 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

 サムスン電子は、バックライトにLED(発光ダイオード)を採用した液晶テレビを「LEDテレビ」として大々的に打ち出して世界市場でヒットさせている。これをシャープやソニーなどの日本勢が猛追し始め、「LEDテレビ」をめぐる韓日戦が幕を開けた。ディスプレイの専門リサーチ会社であるディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に文章を寄せていただいた。

 最近スタートしたシャープ「LEDアクオス」のテレビコマーシャルは、今年度アカデミー賞外国語映画賞の映画「おくりびと」の主演俳優である本木雅弘を起用。「レッドじゃなく、LED!」というコピーには、アクオスの一層鮮明になった画質はもちろん、省エネとなるLED採用のため環境にやさしいことを消費者に認識させる意図があると考えられる。美しさを強調していたアクオスはLEDという翼を付け、一層美しくありながらもエコを象徴するテレビになろうとしている。ただ、日本のLEDテレビは高値である。日本市場では、このような高価なテレビを購入し得る消費者層が厚いため、恐らく最高の製品を高値で売るマーケティング戦略は効果を現すだろう。しかし、全世界のテレビ市場を見てみると、市場のトレンドとはだいぶ異なった路線を選択している印象だ。

 今年の世界テレビ市場の68%を占めると予想される液晶テレビは、過去数年間にかけて成長を継続した。だが、これ以上の成長が期待できない成熟期に入ったという見解は多く、世界経済不況の余波が未だ残る欧米市場の新規テレビ需要は鈍化するとの予想だ。そうした中で、今年の中国の液晶テレビ市場は前年比2倍以上増加すると予測されている。世界市場全体でみれば不安は残るが、液晶テレビの全盛期は終わっていないということだ。

 その一方で新しい成長の萌芽として登場したのがLEDテレビだ。エコという新しい付加価値で購買意欲を高めることにより、液晶テレビ市場が高空飛行を持続できるというのが業界の共通した見解だ。ディスプレイバンクによると、2013年にはLEDテレビが全体液晶テレビの60%を占める見通しだ。

 LEDテレビという言い方は、正しい表現でない。正確には「LEDバックライトを採用した液晶テレビ」だ。LEDテレビと言えば、液晶やプラズマのようなテレビ駆動方式の一つとして誤認されることがある。実際に、英国ではサムスンの「LEDテレビ」という表現を使わないよう規制したという。だが、消費者にとっては一層鮮明になった画質、環境にやさしい省エネ製品という特長を簡単明瞭に認識できるという点で、敢えてLEDテレビと表現するのは優れたマーケティング戦略と理解できる。

 LEDテレビという表現を使用したのは、サムスン電子が最初だといわれている。サムスン電子は名称の簡素化によって強烈なイメージを与えることに成功し、消費者が共感する価格帯の製品を作ることにも成功している。

 現在サムスンが米国で販売しているLEDテレビの価格は、一般の液晶テレビの約140%水準。今年350万台と予想されるLEDテレビ販売台数のうち、70%以上の250万台がサムスン電子製だ。

 来年は1000万台を計画、一般の液晶テレビの130%水準の販売価格が念頭に置かれている。サムスン電子のLEDテレビは、ほとんどがエッジ型バックライトを使用している。一方のシャープは、直下型バックライトを使用している。エッジ型と直下型の違いは、簡単に言えば使用されるLEDチップの数にある。チップが多く入っている直下型は高画質化、チップが少ないエッジ型はテレビをスリム化できるという長所をもつ。サムスン電子がエッジ型を選択した理由はデザインの強みと費用負担の少なさだが、少ないLEDチップで画質改善を可能にする技術があった。

 サムスン電子のLEDテレビが成功しているのは市場のトレンドをよく理解し、市場のニーズに合わせた製品を作る技術があったからだ。LEDに対して認識の高い先進市場においても消費者は一般液晶テレビの画質水準に非常に満足しており、環境問題の解決のために過度な費用を負担しようとはしない。だが、一般の液晶テレビより若干高価なだけでスリムなデザイン、向上した画質、エコを可能としたならば、購買意欲が出てくる可能性は高まるだろう。サムスン電子の成功理由は市場のニーズを理解し、それを製造できる技術について準備。そして必要な時期に、その技術を動員できたためだ。

 日本のメーカーは、世界市場の10%に該当する日本市場では常に最高の成績を出している。日本社会が環境問題に関して世界最高水準のコンセンサスを持っており、エコポイントのような制度的支援もある。しかし、日本メーカーがテレビ市場の90%を占める海外市場でも成功しているかというと、全くそうではない。中国では中国産ブランドにおされ、北米と欧州ではサムスンとLGの攻勢で苦戦を強いられている。BRICsのような新興市場でも韓国メーカーにおされた結果、ソニーが占めていたテレビの世界シェア1位の座はすでにサムスンに奪われた。

 良い技術とは、市場が希望する製品を希望する時期に、希望する価格で作り出すものではないだろうか。サムスン電子のLEDテレビが破竹の勢いで市場を独占しているが、眺めてばかりもいられない。日本のテレビメーカは反撃の手がかりを掴んだのだろうか。