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2011/02/04

<トピックス>私の日韓経済比較論 第1回                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆経済成長に差をもたらした”真犯人”◆

 日韓経済を比較するためには、数値と理論にもとづいた検証が不可欠である。そして数値は一部の極端な数字ではなく、精度の高い調査から一般的な数値を得なければならない。

 しかし残念なことに、サムスン電子など一部の企業の数値が韓国を代表する数値と見なされるなど一般的ではない数値によって日韓経済が比較され、これが多くの誤解を生んでいる。

 お隣の国である日韓はお互いの経済を比較し成功例や問題点を学ぶことで、より良い経済構造を築くことが望まれるが、誤った認識で学んでしまっては、誤った教訓を得ることとなる。

 このコラムでは一般的な数値と理論にもとづき、様々なテーマで日韓比較をすることで、お互い学ぶべき点を考える際のヒントを提供したい。

 まず今月のテーマは経済を見る上で一番の基本となる経済成長率である。

 近年における日本の経済成長率は良くても1%台にとどまり、マイナス成長も珍しくなくなった。

 一方で韓国はリーマン・ショック時を除けば4~5%の堅調な成長率で推移している。韓国と言えば、サムスン電子の大躍進が報道されており、サムスン電子1社で、パナソニックやソニーをといった大手電機メーカー8社を合計した営業利益に迫っている。

 これを見ると、日韓における成長率の差は、躍進著しい韓国企業と沈滞ムードの日本企業をそのまま反映しているようにも見える。

 しかしこの認識は正しくなく、成長率の差は、企業活動からというよりは、人口増加率や高齢化といった人口動態的な要因によりもたらされている。

 これを理解するためには潜在成長率という概念を知る必要がある。潜在成長率とはインフレを起こさず現存する資本ストックや労働力をできるだけ活用した時に達成できる成長率であり、景気循環をなくした平均的な成長率は概ね潜在成長率に落ち着く。

 そして潜在成長率は、成長会計との概念から、①生産性の上昇率、②資本蓄積の増加率、③労働投入の増加率のそれぞれが貢献する部分に分けることができる。2000年代前半の潜在成長率は、日本で1・0%、韓国で4・7%である。

 そしてこれを分解した結果を見ると、日本では技術の貢献度が0・9%、資本蓄積が0・4%、労働投入がマイナス0・3%であるが、韓国では技術の貢献度が1・8%、資本蓄積が2・0%、労働投入が0・9%である。

 つまり潜在成長率の差である3・7%に一番貢献しているのは資本蓄積であり1・6%(43・2%)、次は労働投入で1・2%(32・4%)であり、生産性向上による貢献は残りの4分の1に過ぎない。

 では資本蓄積の貢献に差が出た理由とは何であろうか。これは高齢化である。資本蓄積の源泉は設備投資であり、設備投資の源泉は貯蓄である。

 つまり貯蓄率が低下すると、投資率が下がり、資本蓄積の伸びが低下する。

 そしてライフサイクル仮説によると高齢期に人は貯蓄を取り崩すので、高齢化が進むとマクロでみた貯蓄率が低下する。つまり高齢化は資本蓄積の伸びを鈍化させるのである。日本の高齢化は08年には22・1%であるが、韓国は10・3%と、韓国ではまだ高齢化は進んでいない。

 次に労働投入の貢献に差が出た理由は15歳以上人口増加率の差である。労働投入は労働力人口と密接な関係があるが、労働力人口に影響を与えるのは15歳以上人口増加率である。日本の15歳以上人口増加率は09年にはゼロであるが、韓国は1・2%の伸びを保っている。つまり経済成長率の差は、その多くが高齢化や人口増加率の違いから生じているのである。

 日韓とも少子化が進んでいることから、今後人口減や高齢化にも拍車がかかり潜在成長率が下がっていくが、韓国の下落テンポがより速いと考えられている。

 今後成長率の維持を図る場合、日韓とも人口減や高齢化をいかに食い止めるかが重要なのである。