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2011/04/15

<トピックス>私の日韓経済比較論 第3回                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆財政の健全性◆

 日本では東日本大震災の復興のための財政投入が今後5年間で10数兆円に達するとの見方が閣僚から示される中、財源をどのように確保するかが大変な問題となっている。日本の国家債務は778兆円(2008年度末)でありGDPの164%にも達している。

 国家債務が収束するためには、①プライマリーバランスが黒字、②名目成長率が名目金利を上回るとの、いわゆるドーマーの条件を満たすことが必要なのであるが、日本はその両方とも満たしていない。つまり国家債務は発散過程にあり、震災前から財政は危機的な状況にあった。よって震災復興の財源をさらなる借金に頼るならば、震災前から健全性に疑問符が付いていた日本の財政の信頼が一気に失われる事態になりかねない。

 そこで政府は財源捻出に頭を捻っている。現在のところは不要不急の予算を組み替えることでしのいでいるが、それでは間に合わないのは明らかである。そこで、増税や日銀による国債引き受けなど、景気失速やインフレを招きかねない副作用の大きな方法まで取りざたされているが結論は出ていない。

 今回の大震災は不測の事態であるが、このような不測の事態に対して国債の発行などで財源を迅速に調達して、思い切った政策が打てるような備えが財政には必要であった。一方で韓国の財政を見ると健全の一言につきる。

 国家債務は09年で360兆ウォンでありGDP比は33・8%である。99年の国家債務の対GDP比は18・0%であったので、確かに最近は増加傾向にあることは否めないが、いまだにOECD諸国の中でも3番目に低い水準である。

 さらに韓国の国家債務を見る際には、国家債務の54・0%に相当する額が、融資資金などの対応資産がある金融性債務であることを忘れてはならない。具体的には低所得者向けの住宅取得資金融資のため調達した資金などである。

 日本でも国家債務は大きいが、道路など国家が有する資産も多いので相殺されるとの議論があるが、韓国の金融性債務は全く次元の違う話となっている。

 日本の議論は換金できない資産を金銭的に評価しているなどフィクションの域を出ないが、韓国の場合は政府が借金をして調達した資金を国民等に貸しており、貸した資金が焦げ付かない限り、償還期間を過ぎれば額面分の資金が返ってくる。

 よってGDPの33・8%に相当する債務といっても、実質的な国家債務はGDPの10%強に過ぎない。

 韓国の財政が健全な理由は、財政当局が持つ政府の均衡財政へのこだわりである。韓国では統合財政収支、すなわち、一般会計、特別会計、基金の収支を合計し、会計間の内部取引を除外した収支を財政運営上の目標としている。

 そして統合財政収支が赤字になるとその解消のため一般財政を緊縮基調にすることが通例である。

 例えば、98年には通貨危機後の景気後退のため大幅な税収減となったことなどから統合財政収支がGDP比3・9%と大きな赤字となった。

 これを受けて政府は、99年に「中期財政運営計画」を策定し、06年の均衡財政回復を目標とした。そして一般会計予算を名目経済成長率より2%程度低くすることを明記し、実際にこれを徹底した。

 例を挙げると、01年は景気が後退していたにもかかわらず、歳出増加額を名目成長見通しの8~9%より2%以上低い6・1%に抑えた。そしてこのような努力の結果、目標は前倒しで達成され、00年には統合財政収支は黒字に戻った。

 復興のために必要とされる政府の投入資金は、多目に見積もってGDPの4%程度である。

 歴史に「もし」は禁句だが、敢えて「もし日本の財政が韓国のような健全であったならば」と想像すると、財政の健全性に疑問符が付くことなく、迅速かつ大規模な国債発行ができたのではなかろうか。不測の事態に対応できる財政の状態か否か、日韓では極めて大きな差がついていると言えよう。