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2011/04/29

<トピックス>「韓国企業強し」の受け止め方②                                                       同志社大学大学院 林 廣茂 教授

  • 同志社大学大学院 林 廣茂 教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

 日本から「韓国に学べ」の声が大きく伝わってくるが、韓国に住んでいる生活実感からすると、韓国はまだまだ「日本に学べ」で、先進国になるためには技術やノウハウが不足している。実際に、サムスン電子・李健熙会長が、「日本企業から学ぶことが多い」と、米倉弘昌・経団連会長に述べた(10年4月6日)。また、日本より急速な少子高齢化社会に遠からず突入する韓国は、再び「日本に学べ」になるに違いない。

 これは、去る3月14日同志社大学で、黒田勝弘・産経新聞ソウル支局長、小倉紀蔵・京都大学大学院人間・環境学研究科准教授と筆者による鼎談「今日の韓国を語る」を催したが、その折の黒田氏の発言の一部である。

 筆者は次の主旨の意見を述べた。ここのところグローバル市場の、技術革新をベースにした顧客価値の創造競争で、先行していた日本のデジタル家電や自動車メーカーが、韓国勢に追いつかれ・追い越される逆転負けパターンを繰り返している。造船・鉄鋼・半導体・薄型テレビと続き、今後は自動車、太陽光発電・リチウムイオン電池も逆転されそうだ。今こそ、韓国勢の強さに学んで、負けパターンを断ち切るシナリオを描く時だ。

 小倉紀蔵氏は、要約だが、こう発言した。「韓国に学べ」とは、これまで韓国が「日本に学べ」を一方的にやってきたが、やっと「双方向で学べ」が当たり前になってきた。日本がアジアのナンバー・ワンだったこれまでがアジアの異常状態で、中国が中心になるのが正常状態である。

 日本と韓国はハイブリッド化することで、つまりそれぞれの強みや特色を生かしつつ互いのそれを取り込む第三文化体へ統合することで(筆者)、アジアと世界での新たなアイデンティティー・存在感を高めていくことになるだろう。

 筆者がイメージしたのは、グローバル市場で今後は、日韓中が三つ巴になって互いに学び合いながら、勝敗を繰り返し、それぞれの「新たな勝てるドメイン」を獲得していくことだろう。その中心に中国がどっかりと根を下ろすと言った構図である。清朝滅亡以来100年後に、アジアの中華体制が蘇るのだろうか。

 「韓国企業強し」の現実は、国力で日本が韓国の下位にあるという意味ではない。政治・安全保障・経済・技術・文化の軸で観た国力比較で、経済力・技術開発力・社会/文化の成熟・洗練度などの国際競争力・影響力で、現在のところ、日本に一日の長がある。中国との比較でも大分上位にある。経済の規模で抜かれたとはいえ、日本の国民一人当たりGDPは中国の10倍であり、富のストック、中・先進技術の蓄積、国民の社会・文化の洗練度などで観ても、中国を大きく引き離している。イギリス・フランス・ドイツの国力を、それほど大きくないGDPのサイズだけで判断できないのと同様である。

 問題はその強い国力を、国内外の経済成長戦略の不在とか、FTAなどグローバル化戦略の欠如に観られるように無為無策のまま、少子高齢化と共に確実に衰退するに任せている政治の現状にある。企業レベルでは、「負ける筈がない」の侮りで眼を曇らせ、勝つために何をすべきかを考えてこなかった。「何もしなかった」日本を今後とも韓国が学ぶとしたら、「日本の衰退の原因を、将来の韓国のそれと思い定めて、早くつぶしていけばよい」教訓が得られるだろう。

 韓国企業に負けたデジタル家電や負けつつある自動車メーカーに向かって、「負けるな日本」「ひるむな日本」と声をかけたところで詮無いことだ。勝つプログラムが必要だ。ライバル・韓国勢はハンターのように「日本に勝て(イギョラ)」から更に、「日本にとどめを刺せ」に向かっている。「日本に学ぶことが多いのは」は、今後とも益々「彼を知りて己を知る、つまり、日本勢の強みと弱みを知る」ことで、ソニーやパナソニックなどの日本勢に圧倒的な差をつけるためである。日本勢を撤退に追いやるまで攻勢を緩めないだろう。「負けるな」は、農耕民族の発想だ。天変地変の災害から家族や農作物を守って生き延びる防衛戦略を立てろと言っている。守りでは、いま世界中で韓国勢との負け戦・守勢一方の劣勢にさらされている日本勢の勝ち目は薄い。

 「韓国に学ぶ」最大のレッスンは、「勝つこと」である。そのための戦略を、臥薪嘗胆して練り上げて実行し、韓国勢を再逆転することである。顧客価値の創造競争で負けた日本勢が勝つ方法とは、一段と優れた価値創造で再逆転するしかない。

 再逆転戦略の5本柱。これまで何度も紹介したが、ここでは項目だけを繰り返しておきたい。①業界をオール・ジャパンで再編し、2~3のメガ企業に集約して、グローバル寡占の勝者になる。大規模な連続投資をする体力を獲得する。②グローバル市場の各セグメントで高収益を生む商品開発力とコスト競争力を再習得する。技術経営力の革新が必要だ。③現地対応の商品力とマーケティング実践力。そして積極果敢な、スピーディな現地での意思決定力。現地化の徹底である。④組織と人材のグローバル競争力。日本人を再び外向き志向に変える必要がある。⑤日本勢のグローバルブランド力を、再びサムスンを越えて光り輝かせる。ソニーを再び世界のアイコンに。

 日本の負けパターンを断ち切り「勝ちに行く」には、この5本柱戦略で韓国勢を圧倒しなければいけない。そのために、日本の国力を、日本企業の体力を、選択・集中投下すべきではないか。そして、勝つまでやり抜く意志・実践する気力と胆力・持続力を、日本人に再注入することが必要だ。かくして、日韓勢の喉を切り裂く競争の先に、「文明社会への貢献」という両者の協調のパラダイムが広がっている。次回のテーマである。