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2011/06/03

<トピックス>経済・経営コラム 第32回 日本経済の再成長戦略と日韓協調②                                                       同志社大学大学院 林 廣茂 教授

  • 同志社大学大学院 林 廣茂 教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

  • 経済・経営コラム 第32回 日本経済の再成長戦略と日韓協調②

◆共通リスクに対処し、成長分野の共同開発を◆

 二つ目の協調領域は、共通するリスクへの対処と成長分野の共同開発である。3・11大震災で、原子力発電の「有用性や経済性」が、放射能被害という人類破滅・文明破壊のリスクの大きさの前で吹き飛んだ。代替エネルギーの準備がなく、経済や暮らしへのインパクトを考慮しないまま、「原子力発電を拒否することが正義」の風潮が広がっている。

 両国はこの巨大リスクを共有している。電力供給の原子力発電への依存度は、日本が30%で韓国が40%だ。リスクに対処する方法など、相互支援する体制を速やかに作ることが双方に大きなメリットとなる。

 また、環境技術(太陽光などの再生可能エネルギー)を中心にしたスマート・シティー構想の壮大な実験とその経済や社会生活へのインパクトや効果検証も、両国の技術・知識・知恵が結集できる分野ではないか。

 技術開発と事業開発が同時進行するなかで、両国がその世界標準化をめざすことができるだろう。文明への貢献という大義を掲げて、テーマごとに、企業、大学、各種研究機関などが頭脳を持ちよって共同研究する。異なる発想・意見がぶつかり、散る火花の向こうに、新たな発明や発見が得られるだろう。

 研究成果は、世界に向けて日韓発の「文明の配電盤」(司馬遼太郎)として公開する。

 「戦後65年かけて築いてきた豊かな国・日本が、解体しつつある」と言ったら大げさだろうか。大震災からの復興は愁眉の急だが、同時進行で、これまでの日本を、主として政治と経済の仕組みをリセットして、再び強化と成長の軌道に乗せて日本再生を実現する戦略が必要だ。

 90年代初頭にバブルがはじけて以来、日本経済は、ほとんどゼロ成長の停滞を続けてきた。08年からはマイナス成長である。国の富が、明日のための企業の投資に向けられることが少なく、今日のための社会保障に多くが注ぎ込まれた。成長と増税収がないまま支出だけが増え、財政赤字が雪だるま式に膨れあがった(GDPの2倍超にもなる国と地方の借金)。日本は、失われた20年が過ぎ、今は30年に至る底なし沼の入り口にいる。

 海外での大きな成長機会・高い収益性の機会を失った20年でもあった。国と地方の借金は、正味1100兆円の国民の貯蓄でまかなった。海外への借金ではないからリスクはないとうそぶく人もいるが、それはとんでもない話だ。むしろ国債を海外の投資家に買ってもらった方がよかったのではないか。

 1100兆円の大きな部分を、海外への直接・間接投資(10年で250兆円)に回していれば、国債の金利(20年国債の平均利回りで2%強)よりも一段と高い収益が得られていただろう。

 たとえば、日本の海外直接投資の残高は約74兆円で、アメリカのわずか5分の1くらいだが、収益性は7%~8%だ。企業の国際化を強く促す政策で支援し(FTAの締結、海外投資分の無税化、海外投資への優遇融資など)、企業の海外直接投資が20年の間に、アジアを中心に現在の10倍の740兆円に増えたとしよう。その間、間接投資も含めて巨大な利益を日本にもたらし、国内の新市場創造・新製品開発導入がますます活発化して内需が拡大し、雇用が増え、税収も増えて、国の財政は今より遥かに健全だっただろう。

 一つの大きな光明が、自動車と電気・電子分野での日本勢の活躍だった。両分野が稼ぎ頭で、海外で利益を上げ、それが国内に還流して日本経済を下支えした。世界のリーダーでもあった。その二大分野の優位性が今、韓国勢を始めとする強力なライバルにきり崩されている。

 その間、課題が山のように積みあがった。それらがマイナスの相乗効果を生んで、日本はにっちもさっちもいかない状況に自らを追い込み、そのなかで金縛りにあっている。課題の克服・解消なしに日本の解体は止まらない。

 三つ目、そしてもっとも両国の協調が必要な領域は、今後の国の経済力や競争力を高めるうえで克服・解決すべき多くの共通課題にとり組むことだ。比較でいえば、日本の課題が一段と大きく深刻で、解決する喫緊性も高い。

 日本経済の再生には、8つの戦略課題の克服・解決が必要だ。このまま放置すれば、日本の再生の足かせになって、私たち日本人は成長への意欲や、一度は世界をリードした経済大国の国民であるというプライドさえも失うだろう。

 一方では、課題に対処できる政治指導者を持てないままに、ずるずると今日の危機を迎えたのも私たちであって、自業自得でもあるが、私は再生を目指す側に立ち続けたい。