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2011/06/17

<トピックス>公共外交を強化                                                             申珏秀・新任駐日韓国大使の挨拶

  • 申珏秀・新任駐日韓国大使

    シン・ガクス 1955年忠清北道生まれ。ソウル大学校法学部卒業。77年に外交通商部入り。86~89年に駐日大使館勤務。条約局長を経て、国連代表部次席大使、駐イスラエル大使、外交通商部第1・2次官を歴任、2011年6月駐日大使に就任。

 申珏秀・新任駐日韓国大使が着任、東京・四谷の韓国大使館で13日行われた就任式で、1、公共外交の強化 2、対日貿易不均衡の改善 3、韓日国民間の草の根交流の制度化の3点に力点をおいた就任挨拶を行った。要旨を紹介する。

 駐日大使館では、ほぼすべての政府部署から出向した職員が働いており、「小さい政府」と言っても過言ではありません。また、大使館は、韓国の対日外交の最前線の役割も担っております。私は、このように重要な公館を率いる大使として、強い使命感とともに重い責任を感じながら、東京に着任しました。

 経済的観点からみた東北アジアには、アジアの時代、太平洋時代を先導する韓日中の3カ国が位置して、世界経済の成長エンジンとして牽引役を担っています。このような東北アジアの時代的転換期に韓日関係を強固にすることは、われわれが今後韓半島や東北アジアを取り巻く状況の展開に積極的に対応するにあたって重要な資産になると思います。

 日本は、3・11東日本大震災という大きな災難から一刻も早い復旧・復興を図るために、あらゆる力を結集しています。隣国として、日本の早期再建と正常化に協力することは当然です。韓国国民は、独立記念館建設のために集めた金額より多い、過去最大の900億ウォンの募金を集め「隣国愛」を実践に移しました。今後韓日関係を強固にする上でよい材料となると思います。

 私は、駐日大使として大きく3つの仕事に重点を置きたいと思います。

 第一は、公共外交の強化です。

 日本の内閣府が実施・公表する「韓国に対する好感度」調査結果は、毎年改善され、昨年最高の数字を出しております。しかし、依然として隣国同士に必要な相互理解と信頼の水準には及んでいないのも事実です。わが大使館は、さらなる改善を一層早めるため、日本国民に対する公共外交をさらに強化していく必要があります。

 21世紀は、外交行為者の多様化の時代です。政府が外交を独占していた時代は幕を閉じました。様々な行為者が外交政策の決定過程に関わっています。そのため、「ネットワーク化された複合外交」を通じて、様々な行為者に友好関係を作ってもらうようにする必要があります。韓国と日本がお互いを理解し、信頼し、親交を深めてこそ、真の善隣関係は定着していくでしょう。

 対日公共外交を活発に進めていくためには、大使館による様々な活動を通じて、日本国民と積極的に近づく努力が必要です。私も様々な形でアプローチして、そのような努力を注いで参りたいと思います。

 第二は、年々増大する貿易逆調(対日貿易不均衡)の改善です。

 この問題は構造的なものであるため、アンバランスな構造を改善する方向でアプローチをする必要があります。昨年の対日貿易赤字は、約360億㌦にのぼっており、そのうち部品・素材分野が約7割を占めています。

 従って、対日貿易逆調を改善するためには、われわれ自身がこの分野における力量を強化する努力をするとともに、日本の部品・素材産業の対韓投資を積極的に誘致する必要があります。

 東日本大震災によって部品・素材の供給網が打撃をうけ、日本国内はもとより、国際的にも主要産業の生産ラインに多大な支障が生じました。われわれとしては、今年5月の韓日首脳会談の合意に基づき、東北地方の復興に積極的に協力すると同時に、韓日間における主要産業製品に関する交易・投資が安定的かつ相互の利益になる方向で行われるように取組んで参ります。

 一方、韓日両国は第3国市場における協力を始めました。まだ本軌道に乗っているとはいえませんが、両国の相互補完的な関係を踏まえ、いくらでも協力を拡大・深化させることができます。両国の企業がこうした方向で協力していけるような環境作りに関心を注がねばなりません。そして、韓日FTA締結の問題も、前向きな方向で、実質的な進展がみられるように尽力していかなければなりません。根本的に、両国間における利益のバランスがとられなければならないという点で、どうやってこれをクリアするかを、現地公館として工夫しなければならないと思います。

 第三に、草の根レベルでの両国国民間の交流を制度化することの先頭に立ちたいと思います。

 ドイツとフランスの関係が最も分かりやすい例でしょう。両国は、2度にわたる世界大戦に見舞われましたが、今や欧州統合の中核として、とても緊密な関係を構築しています。1963年、ド・ゴール大統領とアデナウアー首相間で締結されたエリゼ条約(仏独協力条約)は、両国国民間の包括的交流の出発点となり、それに基づいて両国は信頼を積み重ねてきました。21世紀の韓日関係は、このような確固たる理解と信頼がその根底にあるべきです。

 韓日間で人の交流は年間546万人にのぼっており、毎週450便の飛行機が韓日間を往来しています。しかし、隣接した両国の地理的距離を考慮すると、さらに活発な交流があってしかるべきでしょう。とりわけ、両国の未来を担う青少年交流の制度化が肝心です。青少年が気軽に相手国を訪問し、友だちを作って相手を理解するように様々なレベルで交流を拡大していく必要があります。両国の大学生が、相手国の大学で単位を取って学位を取得できるようにもすべきです。

 いま韓日関係は、21世紀の新しい時代の要請と東北アジアの転換という状況の中、より大きなレベルの変化を必要としています。韓日両国は「協力と信頼」の21世紀の新しいパラダイムの中で東北アジアの平和と安定を共に構築していくという意思が何より緊要であります。そして、強固で健全な両国関係を継続的に構築していかねばなりません。駐日大使として、このような時代的流れに合わせて、強固で健全な韓日関係を作るために最善を尽くして参りたいと思います。


 申珏秀大使は16~17日の2日間、宮城、岩手、福島県などの東日本大震災被害地域を視察、被災者を激励し県知事と面談する。


◆公共外交とは 1965年に外交官だった米学者のエドモンド・ガリアンが提唱した概念で、パブリック・ディプロマシーの訳語。外交官を中心に政府間で行われる外交と違い、情報発信や文化・人的交流などを通じて民間とも連携し、相手国の国民や世論に直接働きかける外交活動をいう。自国のイメージ向上・理解増進のため近年注目を集めている。相手国の世論が自国に友好的なら、相手国の政府が世論に反する決定を下すのは難しくなるという効果がある。