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2011/06/24

<トピックス>経済・経営コラム 第33回 日本経済の再成長戦略と日韓協調③                                                       同志社大学大学院 林 廣茂 教授

  • 同志社大学大学院 林 廣茂 教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆日本の再生に、韓国の知恵と知識の活用を◆

 来るぞ、来るぞと言いながら、何の対策も取らないままに、ついに来た。消費需要は確実に縮小している。社会保障の費用は急上昇する一方で、その財源は支出が収入を上回りどんどんやせ細っている。就業者人口は、2010年の6500万人から25年には5400万人に低下する(社会経済研究所)。マイナスの経済成長が続く少子高齢化社会の行く末を考えると恐ろしくなる。解決策の一つは、優秀な移民就労者を受け入れることだが、現在その制度は看護師など特定業種に限定されている。

 明日の成長や稼ぎを得るための投資が不十分だ。日本人の開発能力は世界トップクラスだが、個々の分野でみると、企業間の過当競争や産官学の一体化不足のせいで能力の選択・集中が中途半端である。市場の生成・成長段階では、国家の支援はなく、企業同士が国内の過当競争を海外でも繰り広げるため、長年の努力を注いできた開発の成果を韓国勢や中国勢にさらわれ、ビジネス競争に負け続けてきた。鉄鋼、造船、半導体、薄型テレビで負け、太陽光発電やリチウムイオン電池でも韓中勢の追いあげが激しい。電気自動車や再生医療なども安閑としていられない。

 政府のグローバル競争戦略の無為無策は無論だが、企業が内ごもりでグローバル化努力が不十分だったことがその最大の理由である。

 日本企業のグローバル競争力の復活戦略は、私が韓国の強さを学んで、このコラム・シリーズで提案してきた5つの「再逆転戦略」で勝つことである。

 オール・ジャパン、つまり、産官民一体で日本企業の国際競争力を復活させ、日韓協調のパラダイムの展望を、自信をもって開きたい。

 私たちが、東京一元化・東京依存のライフスタイル一辺倒から抜け出て、その地方「ならでは・らしい」の経済=地産地消の生活を取り戻さない限り、地域経済を復活することはできない。

 また、大企業の工場立地依存の雇用創出は、生産基地の一カ所集約と海外移転が進んでいるなかで、夢物語になっている。雇用の減少→購買力の減少が、地域経済の疲弊に拍車をかける。

 国際競争力が全くない日本農業、農業をやめる方が所得補償などの収入が大きい農家たち。私たちが安い輸入木材に依存すればするほど、日本の山林が有効利用されないまま立ち枯れていく。食の洋風化・肉食化で見捨てられる魚たち。日本の食料安保をどう守るか、国土の健康な保全と有効利用のバランスをどうとるか。いずれも次代につけを回さない解決が必要だ。

 能力がミスマッチでも、東京を離れない若者たち。地方経済の活性化には若者の参加がぜひ必要だが、彼らをUターン・Jターンさせるための能力開発の仕組みや定住までのセイフティー・ネットがない。

 中央政府・地方政府ともに、地域経済の活性化を実現するための長期的な経営視点での戦略(自立経営・資金の地域循環・持続する事業)が欠けている。

 成長がない20年、所得が減少し、生活防衛のために「安ければよい」の消費を徹底した日本人。しかし、そのミクロの生活防衛が、マクロではデフレ・スパイラルの大きな原因だ。

 「安い商品やサービス」は、非正規雇用でコストを削減する、生産基地を中国などに海外移転して国内の雇用を減らす、の両方で実現した。単純労働者や想像力・創造力が不十分な正規社員の収入も減っている。新卒の就職先は減る一方だ。

 これらの課題が山積し、マイナスの相乗効果でますます悪化しているのに、国の無為無策が延々と続いている。移民就業者が増えないのは日本人の閉鎖性・内ごもりが原因だ。

 経済のグローバル化のなか、先進国で唯一FTA戦略が遅々として進まないし、TPP交渉は先送りするなど、政治に国内外のグローバル化への支援をする能力や意欲があるとは思えない。社会保障制度の赤字を埋める財源である消費税の増税には頬かむり。企業の投資意欲を削ぐ世界一高い法人税の引き下げ延期。国民の貯蓄を目いっぱい使い切りながら、新たな国債発行に頼ろうとする安易な財政。貯蓄のゼロ金利が20年も続いているいびつな経済大国。

 遠からず、これら日本の課題の多くが、韓国のそれになるだろう。「少子高齢化」は、10~15年後には日本よりも急速に、幾何級数的な深刻度でやってくる。

 経済成長のスピードが低下し、やがて成長が止まる。「新技術・新市場開発」の分野では、中国の台頭と日本の復活(を期待する)で、韓国は上下からナットで締めつけられる。国内市場は相変わらず小さく、成長機会を海外に求める「企業のグローバル化」が日本以上に進むので、国内の空洞化が加速する。

 東京を凌駕して、全てがソウルに「一極集中」しているが、「地方経済の疲弊」は日本以上に加速するのではないか。あるいは、KTX網と高速道路網が整備されて、韓国全土が半日~1日で往復できるソウル圏に変貌するかもしれない。「農林水産業」「若者のソウル集中」「デフレ・スパイラル」も他人事ではないだろう。

 日本が課題克服・解消にのたうちまわる姿を、韓国は傍観することなく近未来の韓国を先取りする姿だと考え、共同で壮大な研究とシミュレーションに取り組んでもらいたい。日本は、一刻も早く、韓国に働きかけ・勧誘する積極性を発揮してほしい。

 日韓両国のパートナーシップは、コンフリクトを恐れない真剣勝負のとり組みのなかで、気がついたら、きっと腹にストーンと収まるように醸成されているに違いない、と思っている。