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2011/08/05

<トピックス>私の日韓経済比較論 第7回                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆低負担を望むなら韓国の年金制度を手本に◆

 日本では「社会保障・税一体改革案成案」が6月30日に決定された。これは基礎年金、高齢者医療、介護保険といった、いわゆる高齢者3経費について、今後高齢化が進展するなかで、安定財源を確保するための道筋を描くことが最重要の課題であった。そして、2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げること、新しい年金制度の創設などの方針が示された。

 しかし消費税率の引き上げ時期が曖昧であり、また経済状況の好転が条件として付けられているなど、不透明さが拭えないものとなっている。この根本には負担の引き上げに対する国民の反発への恐れがあるものと考えられる。

 日本が抱える根本的な問題は、国民が負担増を望まない一方で、ある程度の水準の福祉を求めていることにある。しかし低負担を望むなら、低福祉を受け入れざるを得ず、日本は解けない方程式を一生懸命解こうとしていたずらに時間を浪費している。

 その点、韓国は極めて現実的であり、低負担、低福祉を実践している。OECDによれば07年における国民負担率は、韓国では26・5%と、OECD加盟国平均の35・8%より10ポイント近くも低い水準であるが、このように韓国の国民負担率が低い背景には、公的年金など高齢者向けの社会保障の給付を抑えていることが挙げられる。

 韓国の公的年金の制度は、若干の例外はあるが国民年金に一元化している、報酬に比例した保険料負担と年金給付がなされているといった点で日本と根本的に異なるが、所得代替率が低い、税金が投入されていないといった違いもある。

 年金制度を考える際には負担と給付が重要である。韓国は88年に国民年金が発足し、当初の所得代替率は、満額受給できる40年間加入した場合で70%と高水準であった。

 しかし高齢化の急速な進展が予想される中、年金保険料を引き上げる負担増か年金の給付減のいずれかが迫られた。そして98年の法改正では保険料率を6%から9%に引き上げるとともに、所得代替率を60%に引き下げるとの折衷策、そして07年の法改正では保険料率は据え置く代わりに、所得代替率を28年までに段階的に40%にまで引き下げることが決まった。つまり韓国は負担の引き上げを可能な限り抑制し、給付水準を引き下げるとの選択を行った。

 また韓国の年金の特徴として、最低補償年金がないとの点も重要である。日本で年金制度の手本とされる国はスウェーデンである。スウェーデンの年金方式は、民主党がマニフェストで提示した年金制度改革案に近い。また制度が一元化され、報酬に比例した保険料負担と年金給付といった点では、韓国の制度と似ているが、最低保障年金が存在する点が大きな違いである。

 つまりスウェーデンでは現役時代に十分な保険料を支払えなかった高齢者にも、生活に困らない程度の金額の年金を給付している。そして最低保障年金の財源は保険料でなく税金で賄っている。

 しかし最低保障年金のための税投入は大きく、国民は保険料負担に加えて、税負担も負っている。一方で、韓国では最低保障年金がなく、「保険料の支払いなくして年金の給付なし」との原則が貫かれている。そのため税金の投入の必要はなく、年金制度関しては保険料負担で完結している。

 以上のように韓国の年金制度は、所得代替率を低水準に抑え、最低保障年金も存在しないとの点で低福祉と言わざるを得ないが、その半面、低負担を実現している。先述したとおり日本の年金改革の議論では、スウェーデンの年金制度が必ずと言っていいほど参考とされるが、負担増に対して国民のアレルギーが強い日本にとっては、スウェーデンの年金制度の導入は難しい。

 これまでの年金改革の議論においては韓国の年金制度はあまり注目されてこなかったが、日本はお隣の国に国民の負担を低く抑えることのできる年金制度のお手本があることを認識すべきであろう。