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2011/11/04

<トピックス>経済・経営コラム 第37回 成長の源泉が中国・アジアにある                                                       西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆海外での稼ぎが国内に豊かさ運ぶ◆

 日韓の企業が競って海外展開を拡大している。これまでの自動車、デジタル家電や電気、機械といったハイテクで文明商品(客観的な機能・性能・コストが競争力次元)の海外での売上・収益の比重がますます高まる一方で、いわゆる内需型の文化商品(主観的な好き・嫌いで評価される日本/韓国らしい・日本/韓国ならではの価値が競争力次元)である食品・飲料、化粧品・日用品、そしてJ-POP、K-POPも海外で人気が急上昇中だ。そして小売業、とくに、日本発のコンビニエンスストアの海外出店が加速している。

 目指す先は主として中国・アジアだ。経済の高成長が続き、消費意欲が旺盛なMOP(中間層)人口が拡大していて、文明商品から文化商品まで、彼らは日韓発の耐久・非耐久消費財が大好きだ。

 海外展開中の日本企業は、売上だけでなく収益もますます海外依存を高めている。そして、アジアでの収益が全体の40%を占めるまでになった。主要上場企業130社の集計結果である(日本経済新聞、6月12日)。

 文明商品の、2010年の海外売上比率をみる。販売台数ベースで、トヨタ・日産・ホンダのJ3はそれぞれ74%、85%、83%だ。いずれも近年海外比率が着実に上がっている。トヨタはダイハツと合わせて日本市場のシェアが45%を占めるため、国内の比率が他社に比べてまだまだ高い。現代・起亜の販売台数は80%が海外だ。国内で70%超の圧倒的なシェアを持っている。

 電機・電子では、金額ベースで、パナソニック48%、ソニー70%、シャープ47%である。国内市場が巨大で、長年総合家電トップのパナソニックのグローバル化が遅れていた。ソニーは最初からグローバル志向だった。シャープは液晶テレビで海外展開に目覚めた。サムスン電子の海外比率は83%で、LG電子のそれは92%だ。国内市場が小さいため、はなから海外依存度が高い。

 内需型産業と言われていた食品、化粧品、日用品をみる。日本経済新聞(7月21日)によると、ユニチャーム42・4%、資生堂42・9%、味の素33・5%、キッコーマン43・2%、キリンHD23・4%だ。味の素を除いた4社は、5年前から海外比率を5ポイント以上高めている。

 コンビニエンスストアは、アジアの中間層にも日々の暮らしに不可欠な小売形態になっている。セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなど、韓国や台湾は無論のこと、中国、そしてASEAN諸国に至るまで根をはり更に増殖中だ。これらのコンビニ店で、日本の内需型企業の食品、化粧品、日用品の売上が伸びている。

 韓国ナンバーワンの化粧品企業アモーレ・パシフィックの海外売上比率は16%強で、中国がその4割を占める。食品ナンバーワンのCJは海外比率を公表していない。日本のライバル企業である味の素やキッコーマンに比べまだまだ動きが遅い。

 韓国の財閥グループ5位で、日韓合わせた10年の総売上高53兆ウォン(約3兆3300億円)を持つロッテグループの海外展開が注目に値する。韓国ロッテは、日本の15倍も売り上げ規模が大きく、ホテル、百貨店、マート、製菓、ホーム・ショッピング、石油化学、スーパー、建設、外食、テーマ・パークなどを手掛けるコングロマリット(複合企業)である。その総合力を利用してアジアでの事業を拡大中だ。

 たとえば中国東北部の瀋陽では、テーマ・パークを建設し、その内外に配置するホテル、レストラン、百貨店などの中核施設を全てロッテのブランドで統一する。ロッテのハイパー・マートは中国で200店展開し、更に増殖中だ。さらに、コングロマリットの総合力にM&Aを加えて、ベトナム、インド、インドネシアへも進出中である。アジアの中間層をターゲットに、豊かで楽しいライフを提供するロッテ商法が拡大している。

 日本の消費市場は確実に縮小している。パイが小さくなる中で、消費者はますます低価格商品を求める。こだわりの消費をし、必ずしも「安ければよい」とは考えない人たちもいるのだが少数派だ。日本の全体消費が、デフレスパイラルの中で縮小しているのだ。

 超円高のせいで、日本からの輸出は、次々に採算割れを起こしている。我慢も限界だ。技術面・品質面での少しばかりの優位性は、円高と弱いコスト競争力のダブル・パンチで、韓国勢の攻勢にあって霧散霧消してしまう。輸出では、海外市場でもう戦えない。韓国勢の輸出競争力は依然として強い。生産ばかりではなく、海外市場でのきめ細かい対応をスピーディーに実践するため、研究開発、商品設計、生産を含めた企業をあげての海外移転が増えている。海外でも仕事できる社員の流失、技術移転も不可避になる。海外生産で日本からの輸出が5%減れば、2年間で国内の雇用が200万人分失われ、GDPは4%分押し下げられるとの試算がある(東レ経営研究所)。

 苦しくとも日本での生産を続ける経済合理性があるという議論もある。「人材を育て先端技術を生む場所であり、海外工場を指導する拠点でもある。グローバル競争を勝ち抜くには、日本に現場がなければいけない」(トヨタ自動車社長)。

 日本のあらゆる産業、日本経済そのものが岐路に立っている。日本は沈むのか、昇るのか。昇るための戦略の一つが海外展開だ。縮小する市場から、拡大する市場での成長を実現して、稼ぎを国内に運ばなければ、国内はお手上げだ。

 しかし稼いだお金をばらまくだけでは成長につながらない。新しい産業創出に投資して、収益の源泉を増やし・収益拡大ができて初めて、私たち庶民の雇用が増え・所得が増えるのだ。国内の産業はどうなるのか、雇用はどうなるのか。