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2011/12/16

<トピックス>未来志向の日韓協業を                                                      佐々木幹夫・日韓経済協会会長に聞く

  • 佐々木幹夫・日韓経済協会会長

    ささき・みきお 1937年生まれ。60年早稲田大学理工学部卒業、同年三菱商事入社、79年イラン三菱商事会社社長、93年米国三菱商事会社社長、98年三菱商事取締役社長、2004年同社取締役会長を経て10年6月同社取締役相談役。11年6月同社相談役。経済団体としては2007年日本経団連副会長などを経て10年6月から日韓経済協会会長、日韓産業技術協力財団理事長。今年の秋の叙勲で旭日大綬章受章

 今年もあとわずか。振り返ると、韓日経済関係はさらに緊密度を増した。特に両国経済界は、9月の韓日・日韓経済人会議で「一つの経済圏形成」を共同声明に盛り込んだ。同会議の日本側団長を務めた佐々木幹夫・日韓経済協会会長に韓日経済関係のあるべき姿などを聞いた。(金時文)

 ――日韓経済協会の8代目会長に就任して1年半。会長としての抱負は実現できていますか。

 伝統と歴史のある日韓経済協会の会長を拝命して光栄に思っている。

 会長職をお引き受けした以上、経済、文化、人材の交流面で両国の絆を一層強めていきたい、との思いで取り組んできた。3月の東日本大震災の影響もあったが、両国関係者の熱い思いと努力、そして両国政府の支援もあり、時期的なずれはあったものの、予定したプログラムを無事、成功裡に終了させることができた。両国の関係者に改めて感謝したい。

 また、大震災の際に、韓国政府、企業、そして国民の皆様から頂いた、多くの激励や支援に、改めて御礼申し上げたい。日韓の絆が一層強まったと感じている。

 ――任期中に「これだけはやっておきたい」という目標は。

 韓国は近くて遠い国と言われていたが、両国は今や、近くて近い関係にある。二国間の貿易や投資の更なる活発化に加え、日韓企業が連携してグローバルマーケットを舞台に展開していくことを、積極的に促進していきたい。そのような活動を強く後押しするのが、日韓のEPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)であると思う。交渉再開には至っていないが、早期の実現に向けて、韓日経済協会とも力を合わせて、引き続き両国政府への働きかけを行っていきたい。

 ――ソウルでの韓日・日韓経済人会議で「一つの経済圏の形成」を共同声明に盛り込む成果をあげました。その意義は。

 日本と韓国はアジアにおける2大先進国だ。両国の人口を合わせると約1億7000万人で、一つの大きなマーケットになる。日韓が協力することで、一つの経済圏を形成し、これをプラットホームとして、両国の発展のみならず、アジアをはじめとする新興国の発展にも貢献できると考える。韓日経済協会側も同じような問題意識や認識を有しており、共同声明が採択された。日韓共に痛みを伴う部分もあろうが、これを克服し、一つの経済圏が形成されれば、将来的には両国に計り知れないメリットをもたらすはずである。

 ――韓日関係が政治的にギクシャクしても韓日・日韓経済人会議はそれに左右されず毎年欠かさず開かれています。

 日本側の日韓経済協会は設立50周年、韓国側の韓日経済協会は設立30周年を昨年それぞれ迎えた。両協会の先輩、先達も含めた皆さんのご努力、それをサポートしてきた関係者の皆さんの熱意と努力で、政治的に問題があっても、毎年途切れることなく、やってこれたのだと思う。私としては、こういった流れを継続し、更に強固なものにしていきたい。また、日韓の未来を担う次世代人材を育成する日韓高校生交流キャンプを毎年行っており、8年間で17回、累計で1500人が参加している。参加者が高校を卒業し、大学に入り、更に社会人になってからも同窓会、OB会といった付き合いが続いていることは大変喜ばしいことだ。我々としても非常に意義のある事業だと考えている。
 
 ――会長は三菱商事時代から何度も訪韓されている知韓派ですが、最近の韓国経済観をお聞かせ下さい。

 韓国はアジア金融危機、リーマンショックなどを乗り越え、発展を遂げてきた。韓国企業も近年はポスコだけでなく、現代、サムスン、LGなど、多くの企業の国際的な活躍ぶりには、目を見張るものがある。

 現下の世界経済は、特にヨーロッパの財政問題と金融危機、米国や日本の景気低迷などの影響、更には新興国の成長にも陰りが出て見えてきているなど、グローバル経済の先行きは不透明感が拭えず、韓国を取り巻く環境も決して良いとはいえない。しかしながら、そういった環境下でも韓国は政治のリーダーシップもあり、各企業が活発且つ戦略的に取り組んでおり、今後は今までのような高成長は難しいとしても、着実な発展を続けていけるのではないかと思っている。

 こうした不透明な時代であるだけに、日韓関係が緊密になることはますます重要になってくると思う。10月の野田総理の訪韓時に、韓国と通貨スワップの枠を拡大したが、これは日韓だからこそできた話しではないか。

 ――東日本大震災後、企業の韓国進出が増えている。空洞化を懸念する声もありますが。

 企業は、常に最適の経済合理性を求めて、生産立地等を判断する。地理的、文化的近隣という背景も考えると、大震災以降、新たな立地を求め、サプライチェーンを再構築する中で、韓国は極めて有利な立場にあると思う。

 韓国はFTAなどの積極的な通商戦略、安定的なエネルギー供給とインフラ、あるいは税制や労働規制の問題など、様々な要素を比較していくと、魅力的な投資先である。空洞化が起こるという声があるが、この流れは止まらないと思う。韓国の労働者の質、モノづくりのクオリティーは高く、各地域の自治体も企業誘致に非常に積極的だ。日韓が協力していくことが、双方にメリットをもたらす、と考える企業も増えてきている。

 ――韓日FTAの交渉再開がなかなか実現しません。見通しは。

 2004年以降、中断したままであり残念だ。しかし、この数年での韓国の発展ぶりは目覚しいものがあり、当時とは環境は様変わりしている。当時はアジア通貨危機を脱した後でもあり、議論がかみ合わない部分も多々あったのだと思う。私としては、今では環境は整いつつあると考える。特に韓国は、通商政策の中でもEPA/FTAの推進を最重要視しており、EUや米国といった大経済圏との協定も実現している。どこの国との交渉においても、高いハードルや問題点はあったはずだ 。従って、日韓の交渉もお互いが歩み 寄る努力をすれば、必ずや解決策を見出せ、道は開けると信じている。

 ――栄枯盛衰といいますが、アジアの時代を迎えて韓日経済協力のあり方について。

 環境が激変する中で、日韓が協力して対応すべきだと考える。これは、今年の日韓経済人会議で一致した共通の認識でもあり、日韓企業が組んで、第3国での事業を開発、促進すべきだという点を共同声明でも強く打ち出した。

 日韓は共に、エネルギー、鉱物資源がないので、両国企業が協業して、新興国の資源開発やインフラ開発に取り組むべきと考える。そのことが両国のメリットにもなり、ひいては当該の第3国の発展にも寄与することになると思う。そのような、WIN-WINの関係を作っていくことが大事だ。そして、EPA/FTAがその後押しになると考えている。

 「未来志向での日韓の協業」、まさにこれが今後の日韓経済協力のキーワードであると考える。