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2012/06/08

<トピックス>私の日韓経済比較論 第17回 生活保護受給問題                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

  • 私の日韓経済比較論 第17回 生活保護受給問題

    ソウル貧民街

◆裕福な子供がいたら受けられない韓国◆

 日本では扶養義務者が高所得でありながら、生活保護を受給していた問題が連日マスコミを賑わせている。生活保護は、憲法25条が根拠であり、国民に対して最低限度の生活を保障するために支給される。

 しかし受給する条件の一つとして、扶養義務者が援助できないことがある。すなわち扶養義務者が援助できれば、生活保護を受給できないはずである。

 しかし、扶養親族の所得がいくら以上であれば生活保護を受けられないのか明確な基準は定められていない。また扶養親族の所得や財産など扶養能力に対する調査が行われていないケースが少なくない。

 韓国にも生活保護に相当する制度がある。国民基礎生活保障がその制度であるが、扶養義務者に関する義務が詳細に定められていることが日本との大きな違いと言える。国民基礎生活保障法施行令では、扶養能力がないと認定される扶養義務者について定められている(以下、「国民基礎生活保障」は「生活保護」とする)。

 ここで重要となるのは、所得基準と財産基準である。扶養能力がないとされる所得基準は、扶養義務者の所得が扶養義務者世帯の最低生計費の130%未満と定められている。最低生計費は世帯人数によって違うが、2012年の場合、3人世帯では月額で約122万ウォンであるため、扶養義務者の月収が159万ウォン以上である場合は、扶養能力があると認定される。

 また財産基準は若干複雑である。まず受給申請者と扶養義務者世帯のそれぞれの最低生計費を合計した額を算出する。そして扶養義務者の財産を所得に換算した額が、先に算出した最低生計費の合計額の42%を超えていれば、扶養能力があると認定される。土地などの一般財産であれば評価額に4・17%を乗じた額、金融財産であれば6・26%を乗じた額が、所得月額に換算される。

 つまり、1億ウォンの評価額の不動産を持っている場合、417万ウォンが月額の所得として換算される。受給申請者の世帯と扶養義務者の世帯がそれぞれ3人世帯とすると、最低生計費の合計額は約244万ウォンになる。よってこれを42%で除した額である約580万ウォンの所得換算額に相当する資産があれば、扶養能力はあると判定される。これは不動産など一般財産であれば、1億4000万ウォンの評価額の財産に相当する。

 以上は原則としての金額であり、特例などに該当すれば変化する。よって上記の金額以上の所得や財産を有した場合、ただちに生活保護を受給できなくなるわけではない。しかし扶養義務者の扶養能力を判定する基準が、明確な数値で定められている点は重要である。

 さらに扶養義務者に対する財産調査も行われる。国民基礎生活保障法に、受給の申請がある場合、扶養義務者の所得及び財産を調査できるとされており、実際に調査が行われている。なお扶養義務者が扶養を拒否する場合でも、相当な理由があれば、申請者が生活保護を受給できる。

 例えば、家出や虐待といった、扶養義務者が扶養を拒否する理由が家族間にある場合など、実質的に家族関係が断絶しているケースがこれに相当する。実際に扶養が拒否されるケースは、2010年には12万件と少なくない。よって扶養義務者の所得や財産が一定以上あれば、生活保護の受給が不可能なわけではない。ただし、その場合には詳しい調査がなされ、拒否理由が妥当と判定されなければならない。

 以上のように、韓国では扶養義務者が高所得である場合、生活保護を受給することは難しい。韓国に学ぶことはたくさんあるが、生活保護についてもその一つであろう。