ここから本文です

2012/11/16

<トピックス>韓国経済の針路 第1回 李 俊順・リーディング証券社長

  • 韓国経済の針路 第1回 李 俊順・リーディング証券社長

    イ・ジュンスン 1968年韓国京畿道生まれ。90年渡日し96年東洋大学経営学部卒業。現代証券、韓国投資証券を経て09年リーディング証券入社、12年7月代表取締役社長に就任。

 世界経済の悪化に伴い、低成長時代に生き残れる経済政策が求められている韓国。折しも、大統領選挙を控え、財閥規制論が高まるなど政策選択の時でもある。韓国経済の針路はどうあるべきか。専門家に聞くインタビューシリーズでお伝えする。

◆知識型産業の育成重要◆

 ――韓国経済の現状をどう見ているのか。

 韓国は輸出に頼っている国であり、世界経済が低迷して消費ニーズが減退すれば、輸出が落ち込み大変なことになる。もしも中国経済が5%成長に極端に落ちたりすれば、それこそ大変だが、現在8%前後で推移しており、深刻な状況ではない。

 リーマンショック後、米国も倒産するのではないかといわれたが、だんだん立ち直ってきた。欧州の債務問題で大騒ぎになったが、これは経済論理だけでは答えを出せない。欧州は昔から戦争を何度も経験してきた。もう戦争をやめようとまとまったので崩壊はないとみている。世界経済は今が最悪で、過度に心配する必要はないと思う。

 ――株価が低迷して総合株価指数は2000を回復できていない。

 いうまでもなく、株価は企業の業績が反映されて動く。韓国はいまの経済状態の見込みがなくて下がっているのではなく、輸出が減っているからだ。外需が回復すれば株価も上昇するだろう。

 韓国は株式市場そのものが小さくて、動きが激しい。参加者も個人が多く、日本と比べて外国人の参加が非常に多いのも特徴だ。韓国の場合、特に大企業の動きが重要であり、トップ30を見れば動向が分かりやすい。株価の動きに関心を持つのは分かるが、株価自体はそんなに大きな意味を持っているとはいえない。株価よりもどんな政策をとっているのかが一番重要だ。

 ――韓国で財閥改革の論議が活発だ。

 大統領選挙を控え、「経済民主化」とか「財閥改革」を与野党が叫び、規制をかけようとしている。国民的な不満がくすぶっていることを反映している。

 韓国はいまだに財閥色が強く、サムスンや現代自動車などの財閥に偏りすぎている。そこから貧富の格差が生まれており、これが是正されないといけないからだ。韓国の場合、財閥は成長の原動力だが、財閥への高い依存度は大きなリスクでもある。国の運命を少数の財閥企業に任せている状態はやはり心配になる。

 企業は利益を追求するため、利己的になりがちだ。そこで、1人で成長したのではない、今後も韓国社会全体の力で成長するという、哲学を持つ必要がある。1997年の通貨危機でサムスンも現代も倒産の危機にあった時、国がつぶれたら大変だ、と国民が自発的に金集め運動を展開し、結婚指輪などを持ち寄った。企業もそこから資金を得て生き残れた。その恩恵を還元する義務があると考える。

 ――財閥改革の方向性はどうあるべきか。

 経済にとって、一番大事なのは雇用・成長で、へたに財閥改革すれば投資意欲が低下する恐れもある。問題は財閥経営のあり方だ。例えば、大企業がすべき業種があり、屋台や小さな飲食店などに財閥系の家族が進出すれば、そこで生計を維持している人が不満に思うのは当然だ。

 また、世襲を当たり前に思っていることも問題だ。韓国の財閥は、経営の能力は二の次で90%以上が世襲だ。創業者の苦労からすべて継がれているのか、今後考えるべき課題だ。循環出資など支配のあり方を変える必要もあるだろう。

 中小企業育成も大事だ。日本には競争力をもった中小企業が多いが、韓国も競争力がある中小企業を育成する必要がある。サムスンの成長以上のスピードで育成する対策を講じてほしい。

 ――輸出だけでなく内需も沈滞している。

 サムスンや現代自動車など財閥企業が輸出で儲けている印象が強い。だが、大企業の儲けが国民に還元されているとはいえない。その結果、個人の所得が増えていない。世界経済も不確実であり、心理的にも今後どうなるかと不安な状況。それでは内需が伸びない。

 消費を増やすには所得や福祉を増やしていく必要があるが、成長がなければ分配もない。成長の仕方が問われているのであり、この点からも財閥改革が必要になっている。

 ――韓日経済関係は。

 世界経済の中心が東北アジアに移っているのは間違いない。日本は今まで培ってきた技術力がある。近くにある中国は13億人の大消費国。韓国はその真ん中で橋渡し役が可能だ。韓日中3カ国の協力がこれまでになく必要だが、自然な形でブロック化していくと思う。その必要性がどんどん高まっていくのは間違いない。

 韓国は今後、成長のために高いレベルの技術を確保していく必要がある。国際化に遅れている日本と個別の企業進出で両国が手を組んで、競争だけでなく協力することで世界に向けて展開する必要がある。韓日協力関係は欠かせない。

 ――今後の針路は。

 歴史をみれば、日本はアジアで一番先に発展した。しかし、いまや造船、半導体などで韓国に追い抜かれ、労働集約型の産業は韓国にとられている。だが、労働集約型の産業は韓国も中国に追いつかれている。同じやり方をそのまま守ろうとすれば、賃金の安い国が勝つのは当然のことであり、変化していかなければならない。

 韓国はかつては繊維やかつらが輸出産業だった。それが今では半導体や自動車、携帯電話に産業構造が変化している。今後はバイオ、IT(情報技術)関係、映像産業などにさらにシフトしていく必要があるだろう。知識産業型の方向に向けて新産業を育成することが大事だと思う。