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2012/11/23

<トピックス>韓国経済の針路 第2回 金 美徳・多摩大学経営情報学部教授

  • 金 美徳・多摩大学経営情報学部教授

    キム・ミドク 1962 年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。(株)三井物産戦略研究所を経て、2010年から多摩大学経営情報学部教授。

 世界経済の悪化に伴い、低成長時代に生き残れる経済政策が求められている韓国。折しも、大統領選挙を控え、財閥規制論が高まるなど政策選択の時でもある。韓国経済の針路はどうあるべきか。専門家に聞くインタビューシリーズでお伝えする。

 ――韓国経済の現状について。

 2009年にいわゆる「100年に一度の世界大恐慌」から見事に回復し、その年は0・2%の成長率を記録した。OECD(経済協力開発機構)加盟国の中では韓国と中国だけがプラス成長になった。翌10年は6・2%、11年は3・6%と、不況の中でも非常に高い成長率を記録した。今年は、ギリシャショックや中国経済の鈍化、新興国の低迷などの中で、韓国だけが伸びるということはあり得ず、2%台に低下する見通しだ。だが、世界経済の厳しい現実の中で出た数字であり、全体の中で評価していくべきだろう。

 将来に関しては、ゴールドマンサックスなどの未来予測レポートを見ると、南北が統一した場合、現在世界15位のGDP(国内総生産)規模が、50年には世界8位の経済大国になるという予測がなされている。統一しない場合でも38年には一人当たりGDPで日本を抜くというデータもある。統一への備えも大事になっている。

 ――韓国経済が抱える問題点は。

 韓国経済が財閥に大きく依存している点だ。財閥への依存度はサムスン、LG、現代、SKの4財閥の売上高をすべて合わせると韓国GDPの52%を占める。つまり、この4財閥に依存する偏った経済構造をしていることが分かる。12月の大統領選挙で各候補のマニフェストには財閥改革を謳っているが、これが何を意味するかといえば、大企業の国際競争力を削ぎ、景気が悪化するという見方もあるが、経済格差を解消させ、バランス良く経済が発展するという意義もある。

 これまで韓国の経済発展は、企業が大きな役割を担ってきたが、今その影の部分として格差など、さまざまな問題を生んでいるのが現状で、これをどうしていくかが大きな課題になっている。

 また、日本に追いつきたくても追いつけない、中国には追い抜かれるというサンドイッチ危機論。それに北朝鮮リスクとその裏返しの北朝鮮特需の間で大きく揺らいでいるという問題もある。

 ――財閥改革のあり方は。

 これからは財閥3世の若い経営者たちが試される時代で、今までは親の力で乗り越えてきたが、今後はその実力が試されることになる。今後グローバル企業化していく上でコーポレートガバナンスがしっかりしていないのは命取りだ。 

 オーナー企業には一長一短があって、決断力が速いからスピードが速い当面もある。だが、世界から人材を集めなければならないのに財閥、同族、世襲を続けていれば、その会社の社員は絶対にトップにはなれない。そんな企業に魅力があるだろうか。当然それなりの人材しか集まらなくなる。

 ――「経済民主化」論議をどうみるか。

 平等、分配といった問題は永遠のテーマでもある。競争をするということは誰かに勝って格差をつけるということで、競争力を持たずに発展するというのは非常に矛盾している。だが、今後は競争でない資本主義、つまり育てる資本主義の道に少子化の日本と同様、進んでいくのではないか。

 ――中小企業育成が叫ばれているが。

 韓国では中小企業を育てろと言われるが、むしろ大企業を育てるべきではないかと提言したい。30大財閥企業以外の企業も大企業並みに育てるべきだという意味だ。そして、車=現代、携帯電話=サムスン、白物家電=LGといった単純な考えをなくす意味で選択肢を広げるべきだろう。

 もちろん、同業他社の乱立になると、アジア通貨危機前の状態に逆戻りしてしまうが、1業種にもう2~3社は欲しい。だから私は敢えて言いたい、大企業を育成せよと。

 ――韓国企業が海外市場で強い理由は。

 韓日の企業比較をすると分かりやすい。韓国はマーケティング力、日本はものづくり力、韓国は技術マネージメント、日本は技術イノベーションと言われる。つまり、韓国は消費者のニーズをもとに製品をつくり、日本は技術をもとに製品をつくっている。韓国はマーケティングマネージャーが上で技術者は下、日本はその反対だ。

 第2に現地化。日本の場合は現地化といってもマイナーチェンジで、ほとんど変わらないが、韓国の場合はマイナーどころかプラスチェンジで、韓国内よりも上のものを販売する。また、韓国はリスクを利益と見ている。それはトップダウンのオーナー経営だから可能だ。人材育成の面でも、日本は熟練、つまり課長レベルの育成だが、韓国は経営者レベルを育成している。

 ――韓日貿易赤字問題にどう対処すべきか。

 韓国の対日貿易赤字問題は、韓国にとって一番のアキレス腱だ。

 韓日貿易は8兆円、韓中は17兆円、日中が27兆円。こういう韓日中の貿易構造の中で、互いにウィンウィンの関係にあり、日本側から韓国の対日貿易赤字自体を論じても意味がないという指摘が多い。だが、日本は対間貿易で毎年3兆円を稼いでいる。韓国では日本に貢いでばかりで困るといいながら、そうした日本の論理に負けて諦めムードになっている面があるが、対日赤字を減らす努力は必要だ。

 東レや住友化学などが韓国に工場を建てているが、これは赤字是正にもつながる。このような投資が活発化することも望ましい。

 ――今後の課題は。

 最も大事なのは韓日協力だ。日本の貿易黒字国1位は韓国で、失われた20年、さらには東日本大震災、タイの洪水という中で日本は、韓国が買ってくれたから我々は持ちこたえ、助けてもらったという認識を持つようになってきたと思う。

 日中の企業連携が簡単にできるだろうか。韓日ほど価値観が似通っていて、歴史的にも交流のある国が他のどこにあるのか。韓日連携強化は、両国の発展に大きな役割を果たすと思う。