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2012/11/30

<トピックス>韓国経済の針路 第3回 鞠 重鎬・横浜市立大学商学部教授

  • 鞠 重鎬・横浜市立大学商学部教授

    クック・ジュンホ 1962年忠清南道瑞山生まれ。高麗大学大学院経済学研究科、一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。一橋大学特別研究員、韓国租税研究院研究委員を経て、1999年から横浜市立大学商学部助教授に赴任、09年教授。経済学博士。専門は財政学、租税論、地方財政、日韓経済。

 世界経済の悪化に伴い、低成長時代に生き残れる経済政策が求められている韓国。折しも、大統領選挙を控え、財閥規制論が高まるなど政策選択の時でもある。韓国経済の針路はどうあるべきか。専門家に聞くインタビューシリーズでお伝えする。

 ――韓国経済の現状をどう診断するか。

 良いところは、新しい環境に適応する能力に優れている点だ。新しい技術が出れば、すぐに飛びついて適応しようとする。とてもスピード感があり、デジタル系は今後も頑張ると思う。また、最近は「融合技術」というものが非常に重要になっているが、韓国はこれに強い。何でもすぐに取り入れる「ビビンパ文化」だからだと思う。

 日本は他のものをオープンに取り入れようとしない。部外者が来たとき、まず内部固めをしてから外部との対応となる。つまり、すぐ同じ立場にならない。韓国は比較的に、ビビンパ(混ぜご飯)のように融合しやすい。今の時代は、この融合が大きな決め手になるのではないか。

 ――問題点は。

 悪いところは安定しない、不安定さがあることだ。例えば、仮にサムスンと現代が大きなダメージを受けたとすれば、韓国経済全体が危なくなる。つまり、経済力が特定大企業に偏重している弊害が深刻になるかも知れないということだ。

 韓国は偏り現象が昔からある。歴史的にも生き延びるために強いところに寄るという傾向があった。そのようなことが現代にも見られており、バブル期までは日本への関心が高かったが、いまは中国に関心が集中している。最近では日本に留学する韓国人大学院生が減ってきた。私が在学していたころの一橋大には大学院生は60人ほどで学部生は10人にも満たなかった。今は逆に大学院生は減り、学部生は増えている。これは、韓国はいま雇用なき成長という問題を抱え、日本にきて就職する傾向があるからだ。

 ――韓国経済の先行きは。

 韓国経済は、内部要因より外部要因により多く影響される。だから、欧州債務危機が克服できれば、韓国も良くなると思う。もっとも、EU(欧州連合)は変化への対応スピードが遅い。ユーロ圏すべてが合意しないとできないからで、どうしても時間がかかる。米国も2013年初頭「財政の崖」という問題があり、減税の打ち切りや歳出カットをしなければならない。米国経済の先行きもそう明るくない。だから中国や東南アジアに依存せざるを得ないが、中国も外国依存であり、その影響を受けている。韓国経済の先行きは楽観できない。

 ――韓国の税収に危険信号が灯っているという指摘があるが。

 一旦財政赤字が膨らむと、止めることは至難の業である。李明博政権は、4大河川改修事業の推進もあり財政赤字が増えた経緯もある。事業への評価も高くない。

 いま財政赤字が増える傾向にあり、急激な少子高齢化の進展を考慮すると今後も財政赤字は増えることが懸念される。健全財政にすべきだが、12月大統領選挙もあり、票集めを意識した福祉支出を増えるだろう。そうなると、経済成長を支える予算が足りなくなる。また、将来の南北統一費用を考えると、健全財政は最後の砦だ。韓国は富の蓄積がないので、財政赤字を増やすと後で大きなつけが回ってくる。だから、健全財政は重要な課題だ。

 ――韓日経済協力について。

 韓国は基本的にフロー文化であり、蓄積に欠ける。これに比べ、日本はストック文化で、いいことも悪いことも蓄積する。捨てることができない。昔良かったことを引きずる傾向もある。日韓双方の特徴を相補うことが大事だろう。

 新技術の分野では日本との国際分業が望ましい。日本は製造業において品質のいい部品をつくるのは世界一といっていい。問題はそれを生かすことだ。韓国は世界を飛び回るマーケティング展開に優れている。

 韓国は中小企業が弱いが、強くなれば大企業が自分勝手にできないよう牽制できる。日本の中小企業は強いが、世界展開ができていない。日本の中小企業と協力することが相互にプラスになると思う。日本企業の風土はしがらみが多く、国内での取引費用が高い。韓国と協力すればしがらみから抜け出すことも可能だ。

 ――韓国で格差問題が浮上している。

 韓国だけの問題でない。資本主義そのものが所得格差を生み出す。それを前提に所得再分配をどうするかだが、これは経済学だけではできない。経済の領域を超え価値観を共有することが重要だ。政治の役割も大きい。

 韓国は面子社会でもあり、大卒だから中小企業に入りたくないという考え方がある。それで非正規職である程度働きながら、いい会社に移動しようと考える。中小企業は人手不足で困っている。このようなミスマッチを解消することが大事だ。

 また、共生という言葉あるが、中小企業なくして大企業はありえない。韓国には本社だけがあり、物品調達を海外に求めるということになれば、韓国経済は空洞化する。そうならないようにするためにも大企業と中小企業の共生が必要だ。

 韓国には歴史の長い企業が少ない。中小企業が育つ環境づくりが求められている。

 ――今後のあり方は。

 韓国はスピードで勝負する経済であり、特にIT(情報技術)分野は譲れない。ITを軸にした融合技術の発展いかんに未来がかかっている。また、数多くの技術を持っている日本と組んで海外に進出すれば、両国の強いところを生かせる。例えば、既に韓国のマーケティング力を生かし、日本の地酒を世界に輸出する企業も現れている。

 また、我々が念頭におかなければいけないのは南北統一であり、この最大課題への準備も忘れてはならない。統一すれば、日本経済も良くなると思う。