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2012/12/07

<トピックス>経済・経営コラム 第48回 対照的な日本と韓国の経済課題                                                       西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆領土問題、経済と友好へのインパクト◆

 お互いに決して譲れない領土問題で、日本と韓国、日本と中国、日本にとって大切な二大パートナー国との関係が緊張している。しかし、対韓国と対中国とでは、その緊張の中身や程度が全く違う。韓国とは政治的な対立が(対決ではない)続いているが、相互依存が益々強まっている経済関係や深い文化理解をめざす民間交流へのマイナス影響を最小化するために、両方が努力を払っている。

 中国は、政治対立を超えて、経済関係も民間交流も、反日・愛国不買(日本商品不買)・日本企業外しなど、日本にダメージを与えるために一方的に、全面攻撃中だ。一部では、日中国交正常化後(1972年)40年間、営々と築きあげてきた両国の友好関係が崩壊寸前だとまで言われている。しかし、日本では、反中・中国不買の動きなど皆無である。

 私は9月中旬にソウルに、10月上旬から下旬まで中国・西安に滞在し、対立の現場にいて、成熟した韓国と未熟を露呈した中国を見聞し実感した。滞在の目的は、ソウルでは現在執筆の準備を進めている「日本と朝鮮半島(韓国・北朝鮮)との競争と共生~経済・経営の視点から~」の資料を入手すること、西安では委嘱されている管理大学院での講義をするため、である。

 雰囲気からいっても避けられなかったが、両地ともに、友人たちと自然に最近の両国関係のイシューを議論した。西安では3日連続で、私のクラスでも取り上げた。ソウルでは、「竹島(独島)は譲れない。自分方に正当性がある」と言いあったが、「戦争して白黒をつけるとか、経済制裁で国益を損なうことも辞さない」などの物騒な議論にはならなかった。鱈鍋をつつきながら焼酎を飲み、「不合意を合意する。竹島は日本領、独島は韓国領のまま」と、談笑で終わった。また、こんなことも気楽に話し合えた。

 日本人の韓国への目線と韓国人の日本への目線が、お互いを等身大でじっくりと理解すること向けられている。韓流や日流はブームを越えて、文化の深い相互理解へと進んでいる。一方では、ポジティブな目線だけではなく、ネガティブな目線にも気付いている。

 韓国人が持つ日本への文化的優越感(現在の日本文化の源流はすべて韓国にある)、日本人が持つ韓国への反発感(今日の韓国の繁栄は日本のおかげなのに感謝しない)、である。光と陰の両面で、日韓の相互理解と交流が一段と進んでいるのだ。

 西安では、友人の教授や私のクラスで学生たちと(外国人16名と中国人4名)「反日・日本商品不買(愛国不買)の経済学」を、事実データで討議した。私が来る前には既に治まっていた西安の反日デモで、多くの明らかな犯罪行為が白昼にまかり通った。500台の日本車が(中国企業との合弁で国内生産した日本車のこと)破壊された。日本車を運転していた中国人男性が、車外に引きずり出されて瀕死の重傷を負わされた。友人の教授は、トヨタ車をガレージにおいたまま運転できないと嘆いた。

 「領土問題に白黒をつけようがない」ことは「日中にも当てはまる」。「恫喝して白黒をつけようとする反日・愛国不買運動は、長期的に中国のマイナスがはるかに大きいのではないか」。これが外国人留学生の大勢の意見として集約された。「日本を恫喝する中国が、東南アジアの諸国にとてつもなく大きな恐怖を与えている。日米欧の企業にとってはチャイナリスクが大きくなり、プラスワンの中国以外のアジアへの投資が今後多くなるだろう。長期リスクだ」。日本とでは、短期的には日本企業の売上や利益に大きなダメージを与えるが、それ以上に、中国への日本の技術移転、ハイテク材料や中間財、工作機械や製造装置の供給が滞れば、中国の製造業そのものが成り立たなくなり、国内で物不足が生じ、輸出にも大きなダメージとなる。そのうえ、2万7000社の日系企業が雇用する数百万人とその家族の生活がマイナス影響を受ける。

 中国人学生は反発した。「デモに参加しなかった大多数の中国人の愛国不買は、尖閣諸島(釣魚島)の日本の国有化に抗議する自発的な態度であり行動だ」。私は、「確かに自発的だが、政府がデザインしてそうなるように仕向けたのではないか」と問いかけた。有効な反論はなかった。その後、クラスの外で、友人教授のゼミ生との夕食で、幾人かが「釣魚島は中国領だが、反日・愛国不買には反対だ」と堂々と発言した。「こんな若者も育っているのだ」と安心した。

 日本商品と言うが、「トヨタやホンダ」は中国企業との合弁で国内生産しているし、また数えきれないくらい多くの中国ブランド商品が、日本の資本・技術・材料や中間財で生産されている。愛国不買は、実質、非愛国不買である。

 私は数年前から、中国人の日本商品に対する態度や行動を定期的に観察している。「日本という国、自動車や化粧品などの原産国である日本」にネガティブな人でも、「トヨタ、キャノン、資生堂などの日本発ブランド」に対しては好意的で、購入率が高いことを実証してきた。今回の愛国不買は、政府がそう強力に仕向けたせいで、日本発ブランドへの一時的なネガティブが増えたと推察するが、日本商品が全滅することには決してならない。政府が、人びとの購買選択・ブランド選択の自由に容喙してはいけないし、できることでもない。短期的にネガティブに振れても、日本企業がブランドを磨き続ける限り、その顧客価値はポジティブに戻り、一段と受け入れられるだろう。

 日本でのサムスンの「ギャラクシー」人気は、日韓政府の対立に関係なく、着実に高まっている。多くの韓国ブランドの認知度も高い。あらゆる産業で、素材・中間財・最終商品やサービスに至るまで、両国の相互依存が深まり、一時の政治対立で、袂を分かつことができないほど密接だ。