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2013/03/15

<トピックス>私の日韓経済比較論 第26回 医療保険制度                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

  • 私の日韓経済比較論 第26回 医療保険制度

    高齢者医療費の増加は韓国でも大きな問題となっている

◆「低負担・低福祉」か「高負担・高福祉」か◆

 筆者は昨年末、ひどい風邪をひき、顔に大きなおできができ、散々であったが、この時ほど健康保険のありがたさが身に染みたことはない。韓国にも健康保険があり、国民皆保険であることなど、日本と似ているところが多々ある。しかし日本との違いもある。

 まず制度的な違いは混合診療が認められていることである。日本では混合診療は認められていない。韓国では健康保険制度が導入されてから混合診療が認められてきた。というよりも混合診療が禁止されていないため、国民健康保険の給与対象となる医療行為は、定められた負担率を乗じた分だけ患者が払い、対象とならない医療行為は全額患者が払うだけのことのようだ。支払明細書にもきちんと区分され医療費の内訳がわかるようである。

 次に統計的な違いとしては「医療費を患者が負担する部分が大きい」ことを挙げることができる。2010年における個人医療費を、公的負担と患者負担に分けると、前者が57・9%、後者が42・1%である。公的負担は、公費負担と公的保険負担に分かれ、それぞれ医療費の9・3%、48・6%を占めている。

 これを日本と比較してみよう。09年の国民医療費の負担構造を見ると、公費負担が国と地方を合わせて37・5%、公的保険負担が48・6%、患者負担が13・9%である。日本との最大の違いは、公費負担の程度である。韓国(政府負担)は、10%にも満たない水準であるが、日本はその4倍程度をカバーしている。なお公的保険負担は、日韓同じ数値である。よって公費負担が小さい分、韓国では患者負担が大きくなっている。具体的には、韓国は医療費の半分近くを患者が負担しているが、日本では15%にも満たない水準にとどまっている。

 韓国における患者負担の大きさは3つの点から説明できる。第一は高齢者負担の高さである。日本では制度上、75歳以上は1割の自己負担、70~74歳は2割の自己負担(現在は1割)であるが、韓国では原則として現役世代と同じ自己負担率である。相対的に医療費がかかる高齢者について、自己負担が軽減されていないことが、全体で見た自己負担率を高めていると考えられる。

 次に医療機関のランクによって自己負担率が異なる点も重要である。入院は医療機関のランクによらず2割の患者負担である。しかし外来は、医院は3割、病院は市部で4割、郡部で3割5分、総合病院は市部で5割、郡部で4割5分となっている。そして上級総合病院では、診察料は全額自己負担、その他は6割負担である。つまりランクの高い病院で外来診療を受ける場合、日本より高い自己負担となる。なお薬局での自己負担は3割と日本と同じ水準である。

 そして最後に国民健康保険の対象となる医療行為の範囲が狭いことも、自己負担比率が高い要因である。この点は韓国政府も問題意識を持っており、05年から徐々に対象となる医療行為の範囲を広げている。

 韓国では「低負担・低福祉」が原則であり、高い医療費患者負担比率は、低福祉の一環として位置づけることができる。ちなみに財政赤字を厭わなければ「低負担・中福祉」が可能でるが、韓国において健全財政を保つことは政権の重要課題であり、国民からも支持されている。よってこの選択はない。

 今後の韓国は、日本以上のスピードで高齢化が進む。高齢者の投票が選挙で重要なカギを握るようになるため、現在のような高齢者に厳しい医療保険制度が維持できるかは不透明である。今までのような「低負担・低福祉」を続けていくのか、税や保険料を引き上げることで、「中負担・中福祉」あるいは「高負担・高福祉」に変えていくのかは、今後の国民の選択となる。