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2013/09/06

<トピックス>私の日韓経済比較論 第32回 有期労働者を無期雇用に転換                                                      大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 私の日韓経済比較論 第32回 有期労働者を無期雇用に転換

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2013年より教授。

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    自動車生産ラインの非正規労働者

◆雇用安定に成果も、待遇改善は限定的◆

 韓国では2007年に非正規職保護法が施行された。

 有期契約労働者を2年以上雇い続けた場合、企業は有期契約を無期契約に転換する義務を負うことになった。

 今、この法律を話題にする理由は、今年4月に労働契約法が改正され、日本でも有期契約労働者を5年以上雇い続ければ、無期雇用に転換しなければならなくなったからである。

 日本では有期契約で雇うことのできる期限である5年の前に、多くが雇止めされるのではないかと危惧されている。韓国でも法施行に際して同様の懸念が持たれた。非正規職保護法が施行されてから6年、韓国では期限である2年を待たずに雇止めされた有期契約労働者が大量に発生したのだろうか。銀行業、流通業の事情を見てみよう。

 まず銀行業であるが、比較的早い時期に有期契約労働者を無期契約に転換した。非正規職保護法の施行前は、窓口業務を有期契約労働者が担っていたが、この業務は比較的経験を必要とする。よって2年ごとに新しい人と契約することで、蓄積された技能がその度ごとにリセットされれば、生産性が落ちてしまう。

 雇用調整の容易さを取るか、生産性を取るかとの二者択一の結果、多くの銀行は雇止めより無期雇用への転換を選んだ。つまり従来は有期契約の反復更新で働き続けていた人は、最初は有期契約で仕事を始めるが、その後、特段の問題がなければ無期雇用に転換されるようになった。

 次に流通業であるが、銀行と異なり無期雇用への転換の動きが鈍かったが、最近になってキャッシャーや商品陳列などの業務に携わっていた人々の転換が進んだ。

 筆者は当初、銀行の窓口業務ほどは技能の蓄積が必要ないキャッシャーなどは、2年を待たずして雇止めされてしまうのではと予想していた。しかし実際は予想とは異なる結果となった。

 銀行業と流通業はそうかもしれないが、製造業を忘れているではないかと指摘があるかもしれない。

 しかし製造業では、有期雇用の雇止めが大きな問題とはなっていない。製造業は、企業が直接雇用する有期契約労働者というよりも、間接雇用、具体的には請負の形態で働いている人が多い。非正規職保護法は請負を対象としていないため、製造業は非正規職保護法の影響がそもそも出にくい業種と言える。

 ここまでは非正規職保護法がもたらしたプラス面を挙げた。

 しかしプラス面がある一方で、有期契約労働者にとって期待外れであった面もある。その一つが、雇用は安定したものの、待遇面は有期契約であった時と比較して改善しないケースが多いことである。銀行業や流通業を見ると、無期雇用に転換された人は、元々の正規職とは別の職群として管理され、賃金の水準が低く、昇進機会も限定的である。

 もう一つは、警備、掃除、駐車場管理、コールセンターなどの業務に携わる人は、請負の形態で働くことが一般的になったことである。非正規職保護法の施行前からも業務の外注化を進めてきた企業はあったが、法の施行後は、その動きが広がった。

 韓国の非正規職保護法に対する評価は、同法に何を期待するかによって異なる。雇用の安定を期待するのであれば、ある程度期待どおりであったと言えるであろう。

 一方で、無期契約に転換されれば、正社員と待遇が等しくなることを期待していたのであれば、裏切られたと感じるだろう。

 韓国と同じことが日本でそのまま起こるとは限らない。しかし、整理解雇要件の厳しさなど似ている部分が多いことを勘案すれば、無期契約への転換義務の影響を予想する上で、韓国の先例は役立つであろう。