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2013/07/12

<トピックス>経済・経営コラム 第62回 日韓の国家ブランド力の評価と課題                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆両国の美徳を内に留めず世界中に発信せよ◆

 日韓両国人は、自国が世界でどのように評価されているのか気になる国民で、その証拠に、世界の信頼できる各機関が毎年発表する世界ランキングの結果に、一喜一憂する。そして韓国の報道からの推測だが、韓国人は自国の評価だけでなくそれが日本よりも上位なのか下位なのかについて、とりわけ関心が強いようだ。

 スイスのIMD(国際経営開発研究所)による2013年「世界競争力」評価(対象60カ国・地域)で韓国は、日本(24位)よりも4年連続で上位にランク(22位)され、経済の成長力・政府の効率性・ビジネスの効率性など企業の競争力を創出・維持する環境づくりで一段と上位に評価された。長年日本の経済成長が止まり政治が機能不全を起こしている間に、韓国は政府主導で大胆な経済改革、米国やEUとのFTA締結、そして企業が経営革新を断行した結果だ。韓国人には大変喜ばしい報告で、「韓国は日本を超えた」と言う人も多い。

 2013年5月、毎年恒例のBBCの世界世論調査が国家(対象22カ国)の世界平和へのポジティブ(貢献)またはネガティブ(障害)の度合いを発表したが、日本は世界で4位の高いポジティブ評価を受け、韓国は10位だった。それまで日本は長年、平和愛好国家として世界トップの評価を受けていたが、韓国と中国の2カ国だけからは常にネガティブ評価だった。13年の順位は、昨年夏以来の韓中両国との関係が冷却した影響で、両国人の日本へのネガティブ評価が一段と強まった結果だ。

 サムスン経済研究所の「SERI―PCNB NBDO」(12年)によると(対象50カ国)、10月~11月に実施した調査で26カ国のオピニオン・リーダーが、日本の国家ブランド力評価を「中身」と「イメージ」で5位と4位、韓国のそれを13位と17位とした。韓国の評価は3年連続で上昇しているが日本との差はまだまだ大きい。日本の中身ランクは11年が4位で大きな変化はないが、イメージでは同年は1位だった。12年のイメージ評価の4位は、日本の経済不況と韓国・中国との領土紛争がマイナスに働いたためと推測される。

 今後韓国が日本にキャッチ・アップするためのポイントが指摘されている。8つの評価尺度の中身評価で、科学技術(6位)・現代文化(8位、K―POPやドラマ)・有名人(7位、PSYなど)はトップ10だが、経済・企業・インフラ・政策・歴史・文化遺産・国民の評価尺度では13位~35位に低迷している。日本の評価は、経済・企業(8位)・科学技術(2位)・現代文化(3位)ではトップ10だが、その他は11位以下だ。イメージ評価では、韓国は経済・企業(9位)と科学技術(7位)がトップ10で、残りの尺度評価は全て年々上昇しているが、17位~31位だ。日本のイメージは、政策と歴史・文化遺産が低いが、その他では全て1位~7位以内である。先進国の仲間入りした韓国は、中身(103)・イメージ(101)評価共にOECD諸国の平均100を超えて、米国・ドイツ・英国・日本などのトップ5に是が非でも肉薄したいところだろう。また、日韓両国人の自国に対する自己評価と、外国人による自国への評価との間に、大きな乖離がある。結論をいえば、日本人は自国を過小評価し、韓国人は過大評価するようだ。先のランキング評価の分析で検証する。

 BBCの世論調査は、国家の自己評価と他者評価の2種類の分析をしている。先ず日本の評価をみる。全体では4位のポジティブ評価(日本人を除いて52%のポジティブ)だが、中でも米国人(66%)・ブラジル人(71%)・英国人(59%)・インドネシア人(82%)などの評価が高く、韓国人(ネガティブ62%)と中国人(ネガティブ74%)の日本評価は最悪だ。日本人自身による自国のポジティブ評価は45%(ネガティブ9%、どちらともいえない46%)に過ぎない。自国の良さを強く主張できない国民性なのか。

 韓国は全体で10位(他者評価のポジティブ35%)だが、自己評価ではポジティブが64%で(ネガティブ22%)、他者評価と自己評価に倍近くの差がある。韓国人の自国への過大評価とか強いナショナリズムを指摘されるが、このデータからもそのことが読めるようだ。

 先のサムスン経済研究所の分析でも、韓国ブランドの中身とイメージ共に、韓国人による自己評価と他国人による他者評価との間にも大きな違いがある。中身では、経済・企業と政策の尺度で、韓国人が思っている以上に韓国の業績は他国人に高く評価されている一方で、有名人・科学技術・現代文化・歴史・文化遺産・インフラでは他国人の評価が厳しい。イメージでみても、有名人・科学技術・文化遺産に対する他国人の評価は韓国人の自己評価よりも低い。こういった尺度で、他者評価をどう高めていくのかが、韓国の国家ブランド力を高める鍵だろう。

 国家のブランド力とは、他国人による自国の評価の指標である。自国を過小評価や過大評価をすることなく、それでいてそうありたい到達目標を掲げて、他国人たちによる中身とイメージの評価を高めていくブランディング活動が必要だろう。「礼儀正しさ・正直さ・理性・信頼性」が韓国人の美徳といわれるが(コリア・ヘラルド)、それを内に留めておくのではなく、日本を含む世界の人たちに実感させて欲しい。日本人も同じ美徳を備えているのだから、韓国を含む世界の人たちに日本を発信し続けてもらいたい。ブランド力競争に、やりすぎということはないのだ。