ここから本文です

2015/06/19

<トピックス>私の日韓経済比較論 第53回 MERS感染拡大                                                    大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。

◆個人消費に影響、景気低迷長期化か◆

 先月、韓国開発研究院(KDI)が「KDI経済見通し2015上半期」を公表したが、注目すべきは、15年、16年の成長見通しを大きく引き下げた点である。

 15年は「KDI経済見通し2014下半期」が示した3・4%から3・0%へ、16年は3・5%から3・1%へそれぞれ引き下げられた。筆者は、近年の韓国の潜在成長率は4%台から3%台に落ち込んでいる点を指摘して、「KDI経済見通し2014下半期」による成長見通しは悲観的な数値ではなく、景気が巡航速度に近づいたことを意味すると主張した。しかし今回の成長見通しの数値は、潜在成長率より明らかに低い数値を示しており、今後2年近くは望ましい成長率を下回ることを意味している。

 KDIによれば、15年は、内需については低金利、原油価格下落、住宅市場の改善などにより投資が徐々に回復する。一方、輸出については中国向けが不振であるとともに、ウォン高の影響などにより競争力が弱まることにより低調な状況が続く。そして総じて見れば成長率の回復に向けた勢いは強いものとはならない。なお、個人消費は実質購買力の改善といった追い風があるが、家計負債など構造的な問題もあり回復には時間がかかっている。

 16年は、内需の改善傾向が持続するなかで、世界経済の改善により輸出の不振が緩和されることから、成長率が多少回復する見込みである。

 このような成長見通しを見ると、15年および16年において潜在成長率が達成されない理由として、ウォン高などを要因とした輸出の不振が浮かび上がってくる。しかしながら、この成長見通しが公表されて以降、内需を冷やすことが必至な問題が浮かび上がってきた。韓国において中東呼吸器症候群(MERS)を発症させるMERSコロナウイルスの感染拡大である。

 MERSとは12年に初めて確認されたウイルス性の感染症であり、主な症状は、発熱、せき、息切れなどであるが、確定症例としてWHOに報告されたもののうち、症状が悪化して死亡する割合は約40%にもなる。


つづきは本紙へ