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2015/09/18

<トピックス>私の日韓経済比較論 第56回 個人消費などに好影響                                                    大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。

◆GNIがGDPを10年ぶりに上回る◆

2015年4~6期の実質国内総生産(GDP)は、季節調整済前期比で0・3%増にとどまった。さらに実質国民総所得(GNI)は0・1%減とマイナス成長に落ち込んだ。これだけを見ると、国内生産の低調もさることながら、国民の所得はさらに低調であると悲観的になりそうである。

 しかし、実際は15年に入り、10年振りにGNIがGDPを本格的に上回る状態となった。これは、国内の生産活動により創り出された付加価値の一部が国外に流出する状態が解消され、逆に国外から所得が流入していることを意味する。

 まずGDPとGNIの関係を説明しよう。GDPは国内で生産された付加価値を意味するが、これがそのまま国民に分配されるわけではない。GNIは、GDPに「交易条件の変化による実質貿易損益」、「実質国外純受け取り要素所得」を加えた数値となる。

 「交易条件の変化による実質貿易損益」は、輸入価格と輸出価格の変化により、実質的に自国に入る利益、あるいは出ていく損失を意味する。例えば、輸出価格に対して輸入価格が高まる場合、すなわち交易条件が悪化する場合を考えよう。この場合、同じ量の輸出をしても、これによって得ることのできる輸入量が減ることとなり、当該国は実質的に損失を被る。

 「実質国外純受け取り要素所得」は、海外で働いている国民の労働力、海外に投資している資本の対価から、国内で働いている外国人の労働力、海外から国内に投資されている資本の対価を引いたものであり、これがプラスであれば、生産要素の輸出によって得る所得が輸入によって流出する金額を上回っていることを意味する。

 韓国では04年まではGNIがGDPを上回り、その差はGDPの1%を大きく超える水準であるなど大きかった。05年以降はその差が縮小したものの、若干ではあるがGNIがGDPを上回っていた。しかし08年以降はGNIがGDPを下回る状態に転じ、GDPの一部が国民に分配されることなく、海外に流れ出てしまう状態が続いた。

 この理由としては、08年までは、交易条件の変化によって実質貿易利益が出ていたが、08年以降はこれが損失に転じたことが挙げられる。一時期はGDPの3%ほどが損失として海外に流出していた。具体的な要因は原油価格の高騰である。原油価格は04年から上昇を続けた。


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