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2015/11/27

<トピックス>私の日韓経済比較論 第58回 難しさ増す金融政策                                                    大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。

◆景気下支え重視か、家計負債増に歯止めか◆

 韓国の景気は2012年に入り欧米経済の不振から後退期に入った。韓国銀行は12年7月に政策金利を3・25%から3%に下方修正したが、以降6回の引き下げを経て、15年6月からは史上最低の1・5%で維持している。景気は13年に入り、欧米の復調により輸出に引き続き内需にも回復の動きが出てきた。

 従来のパターンであれば、14年には景気回復が本格化し、これにともない金利も引き上げられるはずであった。しかし14年4月に旅客船・世越号沈没事件を契機に消費が萎縮し、これに引き続き設備投資も勢いを失ったため、同年8月と10月に、韓国銀行は景気を下支えるため利下げを行った。さらに15年には最大の輸出相手国である中国の成長も鈍化したことから、輸出に陰りが見え始め、同年3月と6月に金利を引き下げた。

 80年以降、韓国政府は均衡財政を堅持しており、大規模な財政政策は最後の手段である。よって、景気浮揚のためのマクロ経済政策の手段としては、金融政策に負担がかかる構造となっている。そのような中、想定外の下振れ要因が続き景気が足踏みしてしまったため、韓国銀行は利上げの機会を逸し、継続して金利を引き下げざるを得なくなった。

 史上最低の政策金利は景気を下支えしていることは間違いないが、韓国経済に家計負債の増加という副作用をもたらしている。家計負債の対前年増加率は、12年に5・2%、13年に5・7%増と比較的緩やかな伸びにとどまっていた。しかし、15年4~6月には9・1%増と伸び率が大きく高まり、残高も1130兆ウォン(対GDP比73%)にまで増加した。 

 低金利は住宅価格の上昇も招いている。国民銀行が毎月公表している住宅価格総合指数の前年同月比を見ると、15年10月に4・2%上昇するなど徐々に上昇率が高まっている。地域別に見ると、大邱は11・7%、光州は6・5%上昇するなど、特に地方都市で住宅市場が過熱する傾向が見られる。

 消費者物価指数の前年同月比は、15年10月で0・9%上昇であり、韓国銀行が定めているインフレターゲットである2・5~3・5%の下限値を大きく下回っている。これは原油価格の下落の影響によるものであるが、農産物と石油類を除いたコアインフレ率も2・3%にとどまっており、物価上昇率については現在のところ、若干低水準と言える。


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